#01 教えて先輩社長! 商社の目線で語る、ブランドが愛されるためのコンセプトと育て方
2022.10.04
シクロ代表取締役の山﨑と、いろいろな分野で活躍している山﨑が話してみたい人を呼んで対談するシリーズ。今回の対談相手は「大阪のいけてるアウトドアショップといえばここ!」と山﨑が太鼓判を押すセレクトショップ「Fav_Our_Planet」を運営する、アルコインターナショナル株式会社の代表、降幡昌弘さん。独自の美学とこだわりのもと良質なブランドを商人として育て続ける降幡さんに、山﨑が質問攻め!頼もしい先輩社長の持つ視点や考えの連続に、感嘆や叫喚が飛び続ける対談となりました。
PROFILE
降幡 昌弘 氏
アルコインターナショナル株式会社代表取締役CEO
大阪府箕面市出身。流通科学大経営学部卒業後、2年半のメーカー勤務を経て、家業である輸入会社・アルコインターナショナル株式会社を継ぐ。アメリカを中心としたアウトドアプロダクト、ファッション商材の輸入、卸をおこなうほか、「地球を、たのしくする。」をコンセプトにしたセレクトショップ「Fav_Our_Planet」も運営する。趣味はトレラン、ウインドサーフィン、スキーなど。
HP : アルコインターナショナル株式会社
HP : Fav_Our_Planet
Instagram : @alco_international
山﨑 昌宣
株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表
大阪府大阪市出身。2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works
「地球を、たのしくする。」ブランドが立ち上がるまで
今日は社長業の先輩として、山﨑さんは降旗さんに聞きたいことがいっぱいあるようです。
山﨑 何から聞いていけばいいんかな。いやね、今日は社長業として降幡さんに聞きたいことがいっぱいあるんですよ。降幡さんの会社って、お父様が立ち上げられた会社で、いま2代目なんですよね。
降幡 52年前に親父が会社を立ち上げたんですけど、立ち上げ時はもちろん今のような海外のアウトドアプロダクトの輸入・販売代理店業ではなかったんですよ。最初は、事務機器や建築資材を中近東に輸出する会社でした。当時は1ドル350円の固定相場制だったので。
山﨑 輸出が儲かってたんですね。
降幡 ただその後、プラザ合意(※)によって変動相場に切り替わったので、国内の輸出商社ってほぼ潰れちゃったんですよ。うちは運良く生き残って、輸入商社に切り替えたんです。婦人服とかカーペットの輸入で生計を立ててたのが30年くらい前で。
山﨑 婦人服?
降幡 なんていうか、よく郊外の駅前とかスーパーに「ブティック」が入ってるじゃないですか。ああいう感じですね。イタリアやフランスの婦人服を輸入して売ってたんです。とはいえ20年前に僕が会社に入った時は、もうブティックの隆盛も過ぎてて、業界全体がすごい勢いで下降基調になってました。
山﨑 どんな感じだったんですか。
降幡 サラリーマンを辞めて家業を継いだ時は、今考えると、会社は一番厳しい時だったと思います。売上も少なかったし、不良債権や不良在庫を抱えてたんです。お客様からの回収もかなり悪かったです。
山﨑 めちゃくちゃピンチの状態で後継ぎになったんですね……!
降幡 まあでも、僕ともう一人の役員とで2つの事業を立て直し、なんとか今のような業務形態に転換して、だいたい5年で整理しきりましたね。よかったです(笑)。ショップである「Fav_Our_Planet」は、僕たちの理念である「地球を、たのしくする。」を英語訳したものなんですけど、理念をお客さんにより視覚的に理解してもらうための場として、そして物と事をつなぐ場所として、昨年の2021年にオープンしました。
※ プラザ合意
1985年9月22日、先進5か国 (G5) 蔵相・中央銀行総裁会議により発表された、為替レート安定化に関する合意の通称。
流通の仕組みを知るためにあえて飛び込んだブラック企業
降幡さんはもともと後継ぎとして会社に入る予定だったんでしょうか?
降幡 呼ばれて家業を継ぎましたけど、もともと会社を継ぐつもりはなかったんですよね。なんなら親父からも「家の会社なんかアテにすんな」「親と同じことすんな、自分で起業しろ」って言われてたので。
山﨑 へえ〜。降幡さんが自分のやりたい業務内容に跡を継いだ会社を変えたのは、お父様のそういう教えもあったからなんですね。サラリーマンって何やってたんですか?
降幡 大学卒業後は生活雑貨や家電を製造・流通・販売するメーカーで2年半くらい働いてました。当時は、現代とは比べ物にならないくらい労働環境が粗い会社も多くて、僕が入社した会社もおっきな声では言えないんですけど当時はめっちゃくちゃブラックやったんですよ(笑)。
山﨑 なんでわざわざブラック企業に入ったんですか。
降幡 わざわざっていうか、わざと厳しい企業に入ったんですよ。早く仕事覚えたいし、自分でいずれ仕事するためには先にしんどい思いしといた方がええかなって。
山﨑 はえ〜、タフすぎる!わざとキツい仕事選ぶなんてなかなかできないですよ。しかも新卒で。
降幡 けど思った以上に厳しくて大変でした(笑)。製造から輸入、販売まで色々すべてを一気通貫する会社だったので、輸入から営業から現場での販売応援、改装まで、物が流通するすべての過程に携わらないといけない会社だったんですよ。取り扱い商品数も1万近い数あり、商品を覚えるのに必死でした……。
山﨑 家、帰れてました?
降幡 帰れないこともありましたよ。帰れずに高速のインターで寝て取引先に翌朝引き返すことなんかもありました(笑)。ハードすぎてやめていく人も多かったですね。毎月誰かが辞めていくような感じでしたね。入れ替わりも担当変更も激しくて、めったに休めなかったし、ほんとに激務でしたね。若いからできたんでしょうね(笑)。
山﨑 大変ですね。
降幡 さすがに今は時代の流れに応じて大幅に是正されたみたいですけどね~。僕が会社員やってたのなんて20年以上前の話ですからね、念の為。
山﨑 「あえて」で入った修羅の職場ですけど、降幡さんの勉強にはなりましたか?
降幡 そこは、めっちゃくちゃなりました!流通のすべての過程に携わる事ができて、物の流れを理解できたし、在庫管理や営業サポート、人事部署などの他部署の仕事内容も、少しずつですが見て回ることができました。そこで得た学びも今にすごく生きてきますね。前職での経験が自分がものを売る指針になりましたね。どっちかというと前職はマス向けのビジネスだったんです。僕が同じカテゴリで戦っても勝ち目はないので。
ブランドをイチから育てて、薄利多売をしない
自分がものを売る指針になった、とはどういうことでしょう?
降幡 安くてそこそこの品質を提供するマスに向けた量販って、ピラミッドの裾野なんですよ。裾野で勝負するビジネスだと、結局価格競争になるし、ひいてはお客さんの取り合いになるんですよ。そういう業界で仕事してたんで、自分はそこで勝負したくないなって。だから価格勝負にならないブランドビジネスをすればええんやなって思いました。商品の価格付けって、ジャンルごとに違いがあるんです。たとえばスーパーやドラッグストアで売られている化粧品や食品、あと白物家電なんかは「オープン価格」なんですよ。オープン価格というのは、同じ商品でもお店によって販売価格が違うんですよね。
山﨑 ああ、そうですよね。うん。
降幡 でも、ブランドビジネスって基本的にオープン価格じゃないんです。例えば東京で買っても九州で買ってもエルメスの値段は変わらないですよね。
山﨑 は〜、なるほど!確かにブランド品ってそうですね!
降幡 僕たちが扱うブランドって上代の決定権がこちらにあるんですよね。だからある程度の利益も確保できるし、安売りするかどうかもこちらで決めることができる。ブランドを僕らがイチから育ててみんなが欲しいものにしたら、ちゃんとお客さんは買ってくれるんです。
山﨑 ちなみに、降幡さんのショップではアメリカのプロダクトを多く扱ってますよね。ブランドをイチから育てつつ代理店業をするっていうのはどういう仕組みなんですか?輸出元のアメリカで決められた価格って、やっぱりあるじゃないですか。
降幡 もちろんアメリカの上代を参考にはするんですけど、基本的にその国の販売代理店が価格は全部決める事ができます。為替や運賃の問題があるので本国の価格よりは一般的に高くなってしまいますよね~。でも僕たちの利益もとれるように本国からは総代理店価格で買わせてくれるので、表品の魅力を伝えるための過不足ない価格で売りつつも、きちんと僕たちの利益は確保することができます。
山﨑 それがいまのアルコインターナショナル株式会社って訳か〜。ほんま、扱う商品どれも魅力的ですもんね。トレランするならアルコで買わんわけにはいかん感じがあるもんな。
「4F+W」のコンセプトに少しでも合わないなら取り扱わない
降幡さんが会社で扱う商品における共通のテーマはありますか?それはブランドとの契約を結ぶ営業にも繋がってくると思うんですが。
山﨑 降幡さんは厳しい会社に2年半いたじゃないですか。営業力も半端ないと思うんですけど、それって活かされてます?アルコではどういう営業のかけ方をするやろうなって。
降幡 ファッション業界って営業力があったとしてもお店の好みが違うと買わないんですよ。ゴリ押ししたところで売れない。提案してあかんかったら次行きましょうって感じです。むしろゴリ押しして、勝手にいろんなお店に売りに行かない方がいい。それってブランド価値を下げるような行為なので。
山﨑 そういう舞台で勝負する商品じゃないですもんね。
降幡 商品によってベストな営業方法があることは前職での経験から学びましたね。それに、売り方自体も世界では変わってきていて。アメリカなんかではセールスよりも圧倒的にマーケティング重視。たくさん売るんじゃなくて、自分達が届けたい人たちに売るのが重要なんです。商品のイメージにそぐわない人が使っているのを見たら「ああ、買うのやめよ」ってなっちゃうんですよね。
山﨑 なるほど、口コミで広まる要素も強い商品だからこそ、見せ方は大事っていう。
降幡 インフルエンサーに使ってもらうにしても、インフルエンサーであるだけじゃよくない。影響力があるのは前提として、商品の世界観にフィットしていて、他の人が魅力的に思ってくれるような人でないとマーケティングには活きてこない。しかも、ブランドによってもその正解は違うんです。
山﨑 うんうん。
降幡 うちで取り扱っている商品でいうと、この「Hydro Flask®」は厳しいんですよ。「この水筒を持って欲しい」っていうターゲットがきっちり決まってる。スポーティーで、アウトドアで、健康的な溌剌さがある。健康的であってもビーチでTバック履いてるようなセクシーなのはダメなんです。インフルエンサーの政治的発言にも厳しいし。
山﨑 インフルエンサーの人選もシビアなんですね。逆にそうじゃないとブランド力をつけてしっかり売れないってことか。僕なんて、Instagramで1日2回くらいハッシュタグとメンションチェックしちゃうし、内容に関係なく投稿に全部いいね押してしまいますもん。
降幡 (笑)。
山﨑 そういう、いいものをターゲットに向けて売る際のセオリーってどうやって会得してきたんですか?
降幡 取引先であるアメリカのメーカーに教えてもらったのもあるし、いろんな仕事相手からブランドの作り方は教えてもらいました。あとはもう、この業界で20年以上やってるからっていうのはありますけどね。正しい人に売ることで、届けたい人に自然に広まっていく。ブランド育てるってそういうことなんか〜って、20年かけてわかってきましたね。
山﨑 ただ、アルコが扱う商品って多種多様じゃないですか。山が好きな人に向けたプロダクトもあるし、海が好きな人のプロダクトもある。アルコらしい商品のセレクトってどうやってるんですか?
降幡 僕たちが商品を見つけて入荷するものも、向こうから提案があるのも両方なんですけど、僕たちが何を基準に商品をセレクトしているかっていうと「4F+W」っていうコンセプトにフィットしているかどうかで判断をしてます。
山﨑 「4F+W」?
降幡 各FとWは英単語の頭文字です。順番が大事で、まずはFashion、おしゃれであること。次にFunction、機能性ですね。その次がFun。楽しさがそこにあるのかどうか。そしてFuture。将来性があるのか。それに加えてWellness。これは心身の健康だけじゃなく、環境の健康もあると思っています。「4F+W」のコンセプトにフィットしていないと、うちでは基本的に商品は取り扱わないんです。
山﨑 ひとつ足りてなくても?
降幡 足りてなくても。ブランドストーリーがあって未来があっても、おしゃれじゃないとアルコが取り扱う商品にはならないです。
山﨑 そうなんか……!すごいなあ、すごい覚悟と決断じゃないですかそれ。僕たちの売り方でいうと、さっきのエゴサもそうですけど「飲んでくれてありがとう」って全員に思ってしまうし、取り扱いたいってお店に関して、発酵が進まないよう冷蔵庫の設備が整ってるなら基本的に誰であっても問わないんですよ。
降幡 ビールとファッションプロダクトはちょっと具合が違うところもありますけどね。まあでも「誰に届けたいか」のコンセプトを分析して持っておくのはいいことかもしないですね。
Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
Photography by 福家信哉