#01 トレランショップ×タップルーム「街をおもしろくするお店」同士が語る、それぞれのスタイル

2022.07.31

シクロ代表取締役の山﨑と、いろいろな分野で活躍している山﨑が話してみたい人を呼んで対談するシリーズ。今回の対談相手は、箕面駅前でトレイルランのショップ「unité」を経営する田所伸太郎さん。トレラン仲間でもあり、「Derailleur Brew Works 山ノ麓 TAP ROOM」と「unité」は同じビルの別フロアでお店を構えるご近所同士でもあります。業務形態も違えば、性格や価値観がまったく異なるふたりの会話から見えてきた、それぞれのオーナー像。そして異なるふたりだから語り合える箕面という町の魅力や可能性とは。

PROFILE

田所 伸太郎 氏

株式会社unite 代表取締役
大阪府箕面市出身。1977年生まれ。箕面駅前でトレイルランのショップ「unité」を経営する。生まれてから45年間、箕面から出たことがない生粋の「レペゼン箕面」。普通高校を留年のち中退し、単位制高校を20歳で卒業。25歳から16年勤務したアパレルメーカーで研鑽を積み、健康目的をきっかけにハマったトレイルランのお店を2020年オープン。趣味は料理、畑仕事、トレラン。
HP : unite(ユニテ)
Instagram : @unite_minoh

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works

「トレランの後にビールが飲めるって最高!」
駅ビルに同居するご近所さん同士

駅前の商業施設「箕面阪急セブン」の1階に「Derailleur Brew Works 山ノ麓 TAP ROOM」が、2階に「unité」が入っています。いわばご近所さんですよね。Derailleur Brew Worksは西成にありますが、箕面への出店を決めたのはどんなきっかけがあるんでしょうか?

山﨑 僕と田所さんのあいだに、岡本くんっていう人がいるんですよ。彼はDerailleur Brew Worksのデザインをしてくれているアートディレクターなんですけど、箕面に住んでいるんです。彼が「トレランの後にビール飲めるお店があったらいいですよね」って話を振ってくれたんです。

田所 箕面は阪急が通ってるから、運転しなくていいですしね。山走って、駅前で飲んで、電車で帰れるっていうアクセスの良さがある。

山﨑 僕としては、箕面にはクラフトビール界の大先輩である箕面ビールもあるんで気にもするし、ここにビール屋を出すポテンシャルがあるかっていうとまだわからないところはあるんですが、箕面にどういう影響を与えられるかという実証実験もかねて、箕面に出店を決めました。

田所 「山ノ麓~」が入ってくれたおかげで、トレラン後のひとつ楽しみができたのでありがたいですね。けっこうお客さんも共有しているというか、被ってるんですよね。僕のお店に来てくれたお客さんがビール飲んで帰ってくれたり、「山ノ麓~」のお客さんがうちの店を覗いてくれたりして。

山﨑 ビールってコミュニケーションツールでもあるから、お互いのお店やお客さんを繋げる橋になってるのは、僕としても嬉しいし有難いですね。

健康目的のランからアクティビティとしてのトレランにハマり……

田所さんが「unité」を営むのはどういうきっかけがあったんですか?

山﨑 田所くんってすごく昔からトレランやってたわけではないよね。

田所 そうです。31歳とか、そのあたりなのでけっこう大人になってから。発端は妻なんですよ。健康のために走りたいって言うので、一緒にランニングを始めたんですが、妻は一ヶ月くらいで走らなくなって、なぜか僕だけ走り続けてた(笑)。

山﨑 (笑)。運動って好きやったんですか?

田所 いや、全然です!中学校まではずっと家でゲーム三昧みたいな子どもでしたし。結婚したとき、妻がはやく子どもがほしいって言うたんですよ。でも僕は子どもが苦手やったんです。でも、妻はほしいって言うし、その気持ちもわかるから、頑張らんとあかんなぁと思って。それで、自分が苦手なことをやろうって考えたんですよ。苦手としていたことを克服できたら、子どもを苦手に思う感覚もクリアできるんじゃないのかなと。 

山﨑 へー!そんな経緯が。すごく子煩悩なイメージでした。だってお子さん5人もいはるじゃないですか。

田所 そうなんですよ(笑)。僕は今までの人生でしんどい事を成し遂げた経験がそんなになくて。
だから誰にも言わずにフルマラソンに挑戦する事にしました。
走り始めて半年くらいで完走して。その時には走る事が楽しくなってきてて。
続けてるうちにトレランって面白いよ?って知り合いから誘われて、トレランにハマって行ったって感じですね。

山﨑 それで自分でショップもやっちゃうんやから、すごいですよねえ。

田所 はじめてのトレランは六甲山でした。その帰りに芦屋にあるトレランも含めた山でのアクティビティを提案する「sky high mountain works」さんに寄って衝撃を受けたんですよ。かっこいー!って。ずっとアパレルで働いてきて、いつか自分のお店を箕面でやりたいとは考えてたんですが、トレランにハマったことがきっかけで「unité」の構想ができた感じですね。箕面は街と山の距離が近いし。

繋がりのなかで生きるレぺゼン箕面の地元密着暮らし

田所さんは、生まれも育ちも箕面で、箕面でお店を営んでいるんですよね。

山﨑 田所くんって、人生で一回も箕面から出たことないんですっけ。

田所 ないんですよ。45年、生まれてこのかた箕面から出たことないんです。アパレル勤務時代も、箕面から通ってました。勤務地が江坂で、バイクで20分くらいやったから。

山﨑 ずっと実家にいたんですよね。へー……!単純な疑問として、家を出ようとかは思わなかったんですか?

田所 それがねえ……思わなかったですね。って言うのもね、母は僕が21歳の時に病気で亡くなってるんです。それまで父親はずっと単身赴任だったんですが、母を家族みんなで看取って、しばらくして落ち着いたタイミングで自分の実家に帰ったんですよ。さらに姉は結婚して家を出るということになって。箕面の家にいるのが僕しかいなくなったんですよね。タダで一人暮らしができる環境になったんです。江坂にも通いやすいし、このまま箕面で暮らしたらええかなあって。

山﨑 昔から箕面という土地に愛着はあったんですか?

田所 もともとはそんなに好きじゃなかったですね。好きではなかったけど、箕面にいる利点があったから居続けた。トレランするようになって、山と街の距離が近いことなんかを知って「箕面ってええところやなあ」って思えるようになったんですが、街の魅力に気づいたのは割と後になってからなんですね。

山﨑 ある程度、歳とってから田舎に近い環境に魅力を感じるっていうのはありますよね。若い時は刺激が強い方がいいですもんね。

田所 そうですね。豊中とか、吹田とかの方が栄えててかっこいいなあって思ってました(笑)。

山﨑 45年も同じ地域に住んでると、みんな知り合いになりませんか?

田所 なりますなります!街を歩いていたら「お〜!」って挨拶する人がいっぱいいますね。

山﨑 みんな知り合いやと窮屈なこともあるんちゃうかなと思ったりするんですが、僕は。

田所 うーん、ええこともあるんですよ。お店を始める以前、毎日、早朝の山を走ってたんですよ。そしたら、特定のおじいちゃんと毎日顔を合わすようなことが起こるんですよね。僕はそういう、毎日会うお年寄りとは仲良くしとこうって思っていて。そしたら挨拶するおじいちゃん全員と仲良くなって、いまはそのうちの一人から畑の土地を借りてます。

山﨑 畑を?どういうことですか?

田所 毎朝挨拶してたおじいちゃんが、たまたま僕が買って引っ越しした家から100m先ぐらいの距離に住んでて。ほんで、たまたま僕が引っ越す前の地域で借りてた畑の持ち主のおじいちゃんと知り合いやった。で、「引っ越してきたんやったら、土地安く貸すから畑こっちでもやったら?」って紹介してくれたんです。僕が知らんところで、おじいちゃん同士が僕に土地を貸す話を進めてました。

山﨑 おじいちゃんの繋がりもすごいけど、勝手に話進んでても柔軟に受け止められる田所くんがすごいと僕は思った。僕やったら、「俺の知らんところで話進めんといてくれ!」ってイラっとしてしまうと思う(笑)。

田所 (笑)。

「一度つくった場所を手放したくない」。
挫折を経験しても、地元からは離れなかった

田所さんが地元に居続ける理由をもう少し教えてください。

山﨑 「地元」っていい思い出だけじゃなくないですか?

田所 それはもちろん、そうですね。僕、高校辞めてるんですよ。公立高校やったんですけど。学校生活の中で浮いてる気がしてて。友達関係や先生とも噛み合わない感じ?2年目からほとんど行かなくなったんです。結局、2年生を2回やっても進級できなくて、退学処分になりました。その後、通信高校に入り直して高卒認定は取ったんですけど……。あれは失敗っちゃ失敗かもしれない(笑)

山﨑 あえてこういう言い方をすると、経験的には苦い「挫折」や「ドロップアウト」じゃないですか。僕やったら挫折を経験した土地にずっと居続けることって結構しんどくなってしまうと思うんです。でも田所さんはずっと箕面にフィールドを構えてるんですよね。それってすごいなあと思うし、なんでなんですか?

田所 「1回つくりあげた場所を手放したくはない」っていう心理はあるんですよ。 せっかく仲良くなった人とあんまり関係を切りたくないんです。だからかなあ。

山﨑 へー。

田所 あと不思議なもんで、僕って昔はけっこう太ってたんです。小学校高学年で80kgに達するくらい。今とは体型も全然違うし、そのうえ高校中退なんかも経験してるので、それなりに変化はあると思うんですけど。でも高校の同級生に街で会うと「変わってないねー!安心した」って言われるんですよね。不思議やなあと思いつつも、受け入れてくれているのは心地がいい。だから別に、ここを離れて別のところに住みたいって思ったことがないのかもしれないですね。

山﨑 そうなんかあ……。周囲が受け入れているのもあるかもしれないですけど、やっぱり田所くんがすごく大らかやからなんやなあって僕は思いますけどね。僕はやっぱり生まれ育った土地にずっといようって気持ちは持てないし、実際、地元とは別のところで暮らしてますからね。


Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
Photography by 福家信哉

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