#01 新しい価値観を提案する「街の自転車乗り」の、ゆるカッコいいスタイルの背景にあるもの

2022.05.31

シクロ代表取締役の山﨑と、いろいろな分野で活躍している山﨑が話してみたい人を呼んで対談するシリーズ
今回の対談相手は「週末サイクリスト」として街の暮らしにフィットした自転車の楽しみ方を発信する「Play! Bike! Camp!」をブログとInstagramで運営しているイノウエリョウさん。山﨑が「かっこいいのに飄々としてて悔しい」というイノウエさんですが、そのしなやかなキャラクターの背景には、若い頃の貧窮を乗り越えてきたクリエイターとしての人生や、若い価値観を常に敬い続ける姿勢がありました。

PROFILE

イノウエリョウ 氏

週末サイクリスト
Webデザイン会社でディレクターとして勤務するかたわら「週末サイクリスト」として地元の面白そうな裏道を探したり、キャンプに行ったり、公園でハンモックを張ってコーヒー飲んだりと自転車で遊んでいる。ブログ「Play! Bike! Camp!」やInstagramアカウントで週末サイクリストの活動を発信中。口癖は「閉店力」。好きなWebサイトは「国土地理院地図」。
Blog : Play! Bike! Camp!
Instagram : @playbikecamp

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works

「発信するからには高みを目指す」ばかりが正解じゃない

「イノウエくんはほぼ同世代の自転車乗りなんやけど、速く走るでもなく、遠くに行くでもない。ほんでものすごくおしゃれでブログやSNSをやってるのに、別にマネタイズしてるわけでもない。こんなカッコいい生き方で、なにか穴はないのか?」と山﨑さんが取材前におっしゃっていたんですが(笑)。

イノウエ そんなこと思ってたんですか!?(笑)

山﨑 自転車って、早く走る、遠くまで走るとか、体育会系的な文脈で語られることが多い。せやけどイノウエくんは、基本的に近場を走る楽しさを掘り下げてる人で。コロナ禍以降のライフスタイルにもマッチしたすごくいい自転車の楽しみ方だなあって思うんです。それに関する情報発信も盛んなのに、コンテンツに「あわよくばこれをお金にしたろ」みたいな気配もない。スマートでカッコよくて、僕は悔しい! アラ探しをしたい(笑)!

イノウエ (笑)。

山﨑 今日も自転車にハンモックと焚き火台積んできてですよ。ササッと火起こししてコーヒーまで淹れてくれて……。ああ、もうかっこいいなあ。

イノウエ 僕、自分の発信してることをあんまりコンテンツだと思ってないんですよ。

山﨑 そうなんですか? メディアもSNSも、あんなにつくりこんでるのに。

イノウエ 昔から自分を表現するのは好きやったんですよ。大学の時に写真部に入っていたので、バックパッカーで海外を回りながら撮りためた写真を、ギャラリーを借りて展示するみたいなこともしてたし、「mixi」に写真やポエムを載せたりもしてたし。なんでしょうね、寂しがり屋やから「もっと俺のことわかってほしい」みたいな感情の延長ですかね。

山﨑 mixiにポエム載せるのは僕らの世代の通過儀礼ですね。

イノウエ 自分のなかでは「表現する」って、それほど大層なもんじゃないんですよ。自分の思ってることをまとめて形にしていくこと自体が好きでやってるので、自分の情報発信において、マネタイズはあまり考えてないんですよ。自分の表現で世に問うていこうみたいな感覚もないですし、マネタイズできるほど高いレベルになるよう「Play! Bike! Camp!」を突き詰めていこう! とも思っていない。 「コンテンツクリエイター」みたいな肩書きは自分のなかにないんですよね。

山﨑 イノウエくんのYouTubeの登録者数、いま180人ぐらいでしたっけ。

イノウエ そうですね、それくらいかな。だからお金にしたくてもできるような数字じゃない。

山﨑 自分の好きなことを好きなように発信してて得た180人のファンでしょ。すごいことですよ。僕個人が「山﨑昌宣のやまチャンネル!」みたいなの始めても、絶対に180人までいかへんと思うもん。Googleに金払って、すぐ無理くり1000人つくっちゃいそう(笑)。

イノウエ そんなに高みを目指さなくてもええんとちゃいますかねえ〜。

山﨑 確かにそうなんですよね……。いま、誰もが発信できる世の中になってしまったからこそ、高みを目指さなきゃいけない呪いにかかってる気はします。YouTubeやるんやったら再生回数上位に入らないと成功とは言えない! みたいな。若い時は、自分が認められたい欲求も強いけど、おじさんになってくるとそれも減ってくるし、何をもって高みを目指すかという思考に切り替えができるといいんですけど。

イノウエ 山﨑さんはもともと実業団でレースしてたのもあるし、自転車と競争っていうリンクが強いのかもしれないですね。

お金のためじゃないメディア運営の価値は、友達ができること&大阪をもっと好きになること

イノウエさんが「Play! Bike! Camp!」を運営するモチベーションはどこからきてるんでしょうか?また、どんな狙いがあってコンテンツをつくっているんでしょう。

イノウエ 自転車ってレースせんでも楽しいやんって僕は思うんですよ。休日、晴れた日にカフェに行って、友達とおしゃべりして帰る……みたいな日常の延長線上にいい自転車があると楽しいんです。僕がよくやっているのが、朝の6時から開いてるパン屋でパンを買って、公園まで自転車漕いで、公園でコーヒー淹れて、そのコーヒーとパンを朝ごはんにして、8時までに家に帰って出社するっていう。

山﨑 うわあ、ええなあ。そういう豊かな朝活……!

イノウエ レースばっかりしたくないなーって人もいるし、自転車買ったはいいものの、お店のライドイベントはガチ勢ばっかりで疲れた人とか。僕が朝活で自転車漕いでる時間なんて実質20分くらいなんですけど、それをおもしろいと思ってもらえることが嬉しいですね。自転車業界の裾野を広げようみたいな大層な想いはないんですけど、「自転車ってこういう楽しみ方もあるよー」っていうのを伝えたい気持ちはあります。あと、僕の方から「素敵な走り方してるなあ」とか、「かっこいいバイク乗ってるなあ」って気になる人がいたら「一緒に遊びませんか」と声をかけて走りに行くこともあるし。僕なりの提案と同時に、友達をつくるために「僕はこういう人間ですよ」ってプロフィールをメディアを通して伝えてる感じですね。

山﨑 古のインターネット「前略プロフィール」じゃないですか……! 全員がそうって訳ではないですけど、大人になってからできる友達のほうが感性も合うし居心地いいですよね。若かった頃は40歳過ぎてから友達が増えるなんて昔は思ってなかったですし。

イノウエ そうそう。あともうひとつあるのは地方創生ですよ、やっぱり。

山﨑 出馬するんですか……!?

イノウエ しないしない(笑)。子どもの頃は堺市とか河内長野市に住んでたんです。同級生にいじめられてたこともあって「地元」っていうのに思い入れはないんですけど、「大阪」という土地は好きなんですよ。よそはよそで景色が綺麗なところとか、食べ物がおいしいところとかたくさんあるんですけど、自分の住んでる大阪で遊ぶのはやっぱり楽しいんですよね。

山﨑 遠くに行ったときにこそ、地元のよさに気づくことってありますよね。

イノウエ 3年前、大阪の友達と一緒に浜松へ遊びに行ったんですよ。東京の友達と浜松で落ち合ったところに、浜松在住の自転車乗ってる人が合流して。その人に案内してもらいながら浜松の近郊を自転車で走ったのがめちゃくちゃ楽しかった。人も面白いし、食べ物もおいしいし、山もあるし海もある。あ、旅のあいだに「Octagon Brewing(※1)」にも行きました。その時、地元の人に案内してもらってその地域を走るのってこんなに充実するんやって知ったんですよ。だからこそ、僕も他の地域に住む友達や知人に、大阪を案内できたらええなって考えたんです。

山﨑 僕らって比較的都会の大阪に住んでるから風光明媚な景色とかに感動しがちですけど、大阪の街ナカも他にはない魅力はありますよね。

イノウエ そう。実際、遊びに来てくれるとめっちゃ「大阪おもしろい!」って言ってくれるんですよね。飲食店も多いし、イケてる自転車屋やフレームビルダーのアトリエもコンパクトなエリアに揃っている。そういうのは大阪の魅力ですよね。地元の人……つまり僕が楽しんで走る道や街を、いろんな人に案内して、大阪のことを好きになってほしい。レース以外の自転車ライフを紹介するのも、街を案内したり案内してもらったりできる感性の近い友達が増えたらいいなあって思ってですかね。そんな感じで「Play! Bike! Camp!」を運営してます。

※1 Octagon Brewing
静岡県浜松市にあるブリューパブ。
当コーナー『ON THE ROAD』の前回の対談相手は、Octagon Brewing運営 / 丸八不動産株式会社社長 平野 啓介 氏。
#01 本業とは別にビール醸造をする者同士で語る「地場のビール」の大義とおもしろさ

Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
Photography by 福家信哉

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