#01 ICT技術と発想力が概念を壊していく。アパレルブランド「NUD.」が掲げるユニバーサルデザインのその先

2025.02.20

シクロ代表取締役の山﨑と、いろいろな分野で活躍している山﨑が話してみたい人を呼んで対談するシリーズ。今回の対談相手は、兵庫教育大学の教授である小川修史さん。教育工学を専門とし、インクルーシブ教育などに力をいれるほか、次世代のユニバーサルデザイン「NextUD」の啓発に尽力。2022年にはパリコレ(Paris Fashion Week)期間中に、パリでユニバーサルデザインのファッションショーを開催するなど、ユニバーサルファッションの可能性を広げる取り組みとして注目を集めています。2024年には、障害や性別といった多様性の常識を超えるファッションブランド「NUD.」を展開。さまざまな活動や研究のお話から、現代の価値観が生む障害や学びの場についての課題、「ユニバーサルデザイン」の先にある目標などについて話し合いました。

小川 修史 氏

兵庫教育大学大学院 学校教育研究科 教授/NUD.コンセプトアドバイザ

京都府京都市出身。和歌山大学の工学部でシステム工学を学び、2008年から兵庫教育大学大学院学校教育研究科に着任。教育工学やテクノロジーの力を特別支援教育やインクルーシブ教育に活かす研究・活動に従事しており、更なる魅力を求めて2024年からファッションブランド「NUD.」のアドバイザとして精力的に活動。障害や多様性の既成概念をファッションの魅力で越える挑戦者。

HP : NUD.official

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長

Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。

HP : Derailleur Brew Works

嬉しい・楽しい・カッコいい。幸福度を上げるためのデザイン「NextUD」

大学の先生にお話を聞くのははじめてではないでしょうか。

小川 僕にオファーをくれたのは何かきっかけがあってのことなんですか?

山﨑 もともと先生のお名前と、活動のことは存じ上げていたんですよ。すてきな活動をされている方がいるなと。そのうえで、前回の対談相手が、ファッショナブルな装具を製作している整形外科の先生だったんです。ビビッドな色の樹脂製のギブスとか、ポーチにもなる蛍光色の三角巾をつくっている人で。機能的なところとファッショナブルなところってもっと同居できるんだなと思ったんですよ。

小川 ええ、ええ。

山﨑 そういう事例をもっと知りたいし、専門家のお話を聴いてみたいなとなった時に、小川先生のことを思い出したんです。いま先生がやっていらっしゃる分野ってどういうものですか?

小川 僕はいま兵庫教育大学に勤めていて「NextUD LAB.」という名前で研究をしています。「NextUD」とは「ユニバーサルデザインの次」という意味。いままでのユニバーサルデザインって「Accessibility」と「Usability」ばかり考えられてきた。

山﨑 誰もがアクセスできて、多くの人が負担なく快適に使えるものってことですよね。

小川 そうです。それはいろんな人の生活を便利にしてくれますけど「身につけて嬉しい」とか「カッコよくてテンション上がる」っていう感情に寄り添ってくれはしないんですよね。私たち「NextUD LAB.」は、従来のそれらに加えて「Enjoyability」を強調したものを考えてます。嬉しい・楽しい・カッコいい、そんな幸福感を感じるユニバーサルデザインです。

山﨑 は〜、なるほど……!序盤からもう講座を聴いている気分です。

小川 「Enjoyability」を強調することで、ユニバーサルデザインが持っている「障害のある人のためのデザイン」ってイメージからの脱却に繋がるんですよね。ひいてはそれが、障害があるないじゃなく、その人の魅力を引き出すことになっていくわけです。

山﨑 不謹慎な話でなかなか言えなかったんですが、昔、目が悪い人が羨ましかったんです。というのも、ずっとメガネをかけたくて。

小川 あはは!いいですねえ。

山﨑 目が悪い人のためのプロダクトが、いまやファッションアイテムで、なんならオシャレのための伊達メガネもあるじゃないですか。服においてももっと出てきてもいいんだなって。

山﨑 先生が今日履いていらっしゃるの、これはスカートですよね?

小川 そうですね。これ、巻きスカートなんです。個々人の下半身の可動域にもよるんですが、車椅子ユーザーが脱ぎ着しやすくて、なおかつオシャレな服ってまだまだ少ないんですよね。

山﨑 そうですよね。下半身の服を見せたくなくて、ずっと膝掛けで隠しちゃう人も多いですし。

小川 でも巻きスカートだと、腰に巻きつけてプリーツを整えるだけでオシャレになるんですよ。しかもこれ、マジックテープで留めるので着脱がかなり楽なんです。そして丈が長いので、冬場にインナーを重ね着しまくってても野暮ったくならないという(笑)。

山﨑 あ〜、それは便利ですね。

小川 開発したきっかけは車椅子ユーザーからの声だったんですが、障害の有無や性別を問わず誰でも履けるスカートなんです。けっこうね、男性のユーザーさんからも「これ欲しい」ってお声をいただけるんですよ。

山﨑 スカートって言っても、見た目は袴に近いから男性もそんなにハードルないですよね。僕、剣道部やったんですけど、袴がこのスキームやったらよかったなって思いますもん。

障害がなくても欲しくなる!?アパレルブランド「NUD.」

今日はたくさん服をご用意していただいていますね。

山﨑 ラックにかかっている服、どれもめっちゃキメキメのカッコいい服ばっかりですね。

小川 これらは、「NUD.」というブランドの服で、障害や性別といった多様性を超越したファッションを世の中に生み出したいと思って立ち上げたものです。実際に着てもらいながらだと機能性とファッション性がわかってもらえると思います。

山﨑 わ、これ着ていいんですか。

小川 まずはこのライダースジャケット。腕や背中にもジッパーがついていますよね。つまりジャケットが左右で分割できるようになっている。だから、肩が動かなくても、問題なく着れるようなつくりになってるんです。

ライダースの着脱をサポートするNUD. 代表/Designerのタニグチアイさん(※1)

山﨑 ライダースって肩甲骨の可動域がないと着れないですよね。僕もう五十肩で肩がぜんぜん上がらんくて……(笑)。

小川 これだと、左右のパーツをきて最後にジッパーを上げれば、上半身の可動域に制限がある人でもライダースを着れるんです。もちろん五十肩の人も(笑)。

山﨑 あ、ほんまや。スルッと腕が通ります。そもそも上半身がうまく動かない人がライダースを着るって発想がないですもんね。

小川 でも、これなら着れる。腕にもジッパーがついていますよね。これは閉じていれば装飾なんですけど、開くと点滴や注射が打てるようになるんです。

山﨑 へえ〜すごい!点滴を打つためにわざわざアウターを脱がなくていいという。

小川 次がこのドレスシャツ。これ、袖に腕を通さなくても着れるシャツなんです。襟のところはマジックテープで着脱できて、脇のところにジッパーがついてるので、スモックみたいにガバッと被ればそれでOK。服を着るのに介助がいる方も楽やし、介助する方も楽なんです。

山﨑 この楽さはすごいですね。しかもフツーにオシャレなんですよね。

小川 あとはこのドレスとか。このドレスは筋力が低下していく難病を抱えた方に向けてつくったものなんです。首元、腕、胴、下半身とすべてパーツが分かれていて、ジッパーで着脱ができるので車椅子に座ったままでも着ることができるんです。ボリュームのあるフォルムは、筋肉が少なくなったボディラインを隠す役割を果たしてます。

山﨑 巻きスカートもそうですけど、フォーマルな場でも見栄えがして、かつ障害があっても着やすい服って絶対もっと普及するべきですよね。めっちゃ考えられてるなあ。しかも普通にカッコいいしかわいい。

小川 そうなんです。僕はこのブランドを「障害がある人に向けたアパレル」には絞っていない。障害がある人もない人も、同じように楽しめる服なんです。このドレスシャツだって、ちょっと肩が出てるのがセクシーじゃないですか。レディースの服でこういう肩出しの服ってありますよね。

山﨑 ありますあります。

小川 ライダースジャケットは背中のジッパーを大胆に開けて、ガッツリ肌見せもできるっていう。インナーに色や素材の違う服を着て、見せてもかわいいんですよね。障害がなくても欲しいって声が聞こえてきたら、もう狙った通りって感じです。

ファッションの「ファ」の字もわからなかったからこそのアパレルブランド立ち上げ

アパレルブランドを立ち上げたきっかけについて教えてください。

山﨑 「ゼロからアパレルブランドを立ち上げるていうのもすごい話ですよね〜。先生は前からファッションに詳しかったんでしょうか。

小川 いやいやもう全然。5年前まではファッションの「ファ」の字も知らなくて。余談ですけど、僕がいま特別支援教育や障害支援の領域にいるのだって、最初は「モテたかったから」なんですよね。

山﨑 へ?

小川 大学では工学部に入学したんですけど、地方の大学だったので繁華街も遠い。こう……モテたかったんですよ。どうやったらモテるかなあって思った時に、ワイワイ飲み会をするようなキャラではないし、ただいろんな人に出会える場にいたいし……って、ボランティアをはじめたんです。

山﨑 モテるためにボランティアですか……(笑)。

小川 当然、動機が浅はかなのもあって全然モテなかった(笑)。

山﨑 あっはっは!

小川 でも、ボランティア活動のなかで、障害をもつ子どもたちの会の運営をする機会なんかもあって、いろんな障害を持つ人たちとのつながりができた。で、僕は工学部なんで、工学の知識を障害いのある子どもたちに活かせへんかなと卒論のテーマにしたら、すっかりこの領域にハマっちゃって。結局そのままね、博士課程まで行って、いま教育工学と障害支援を掛け合わせた分野で、教育大学で働くに至ったというわけです。

山﨑 不純な動機ですけど、それがなければ小川先生の今日の研究はなかったと思うとおもしろいです。

小川 極端にいうとユニクロしか知らないような人間だった。でも、それくらい疎くて、ファッションの専門家じゃないからからこそ「NUD.」は立ち上げられて、いろんな服をつくるに至ったんですよね。僕がファッションについて詳しかったら、 いわゆる一般のファッションの固定観念でデザインを考えてたと思うんですよ。

山﨑 というと?

小川 「NUD.」はコンセプトを考える僕と、デザイナーである谷口藍(※1)のユニットです。僕は「こういうギミックがあれば、こういう障害を感じている人も着れるんちゃうの?」って思いつきでアイデアを出すんですけど、それが服づくりとして現実的に可能かどうかっていうのは全然考えてないんですよね……。谷口は僕の無理難題を実際のデザインに落とし込んで、実際に形にしてくれる。

山﨑 無理難題すぎて突っぱねられたことはなかったんですか?

小川 それは……ないかなあ。無理難題の先に「こういうカッコいい服つくりたい!」っていうゴールがあるっていうのは理解してくれているので。あ、でもいちばん難しかったのはあれか。立体的な服をつくってくれって言ったんです。立ったら普通のボトムスだけど、膝のパーツが独立していて、座ったら膝の位置がボコンっと上がるような。

山﨑 すごいですね。めっちゃトランスフォームしてるみたい。中学生とかにウケそうですよね。

小川 車椅子のなかには起立姿勢で乗れるものもあるんです。このボトムスを履いていると、起立姿勢だと膝にあたる位置が上にあって、足長に見えるんですよね。で、座るとボトムスの全面がニュッと立ち上がって、座ってる状態だとメカニックになるというか。もちろんユニバーサルデザインである必要があるから、着脱がしやすくないといけないしで、これは大変だったんじゃないかなあ。

山﨑 かなり前衛的ですね。もっとこう、ユニバーサルデザインって「わかりやすさ」があるじゃないですか。

小川 それこそが「NUD.」の狙いなんです。「障害のある方向けのデザイン」という既成概念をいかに取っ払うかっていう。

※通常、本サイトでは「障がい」の表記を使用しておりますが、本記事においては文脈上の理由により「障害」の表記を使用しております。

Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
Photography by 福家信哉

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