#6 『BEERCAKES KYOTO』物語。
2023.04.20
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#05 はじまりの場所と油っぽい香りの記憶
PROFILE
山﨑 昌宣
株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表
大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works
馬詰 有依子
就労継続支援B型ディレイラ
サービス管理責任者・事業開発調整担当
大阪府堺市出身。生命保険の事務やクリニック医療事務を経て、2014年に株式会社シクロに入社。現在は、障がい福祉分野の就労継続支援B型ディレイラで就業支援に携わるほか、部門内でのイベント運営などにも取り組んでいる。
そわそわ。
人は、どんなときに「そわそわ」するのだろうか。
楽しみなとき?不安なとき?
今回については、この両方だ。楽しみなことには不安もつきものである。最近馬詰は、そわそわしている。
はじめるよ、いや、いつでも、はじまるよ。
え、もうはじまってるの?
「BEER CAKES シリーズ」
(詳細は#01 『シンプルにまずい。笑』から、はじまった麦芽粕シンデレラストーリー。)
麦芽粕を使った製品開発は麦芽麺だけではない。
ビールの醸造に用いる原料の麦芽麦汁を抽出したあとにできる副産物、麦芽粕。
馬詰たちは、この麦芽粕の処理問題を解決すべく「おいしくないと、 もったいない」をテーマに掲げ、アップサイクルする研究を重ねてきた。そうして開発されたのが、麦芽粕粉(Superflour)である。
さまざまな食品に、最も適するように製粉比率をカスタマイズして生産している「Superflour」は、パン、焼き菓子、麺やピザなど、小麦を使用している食品には、ほとんどすべてに使用できる。そのため、麦芽麺のカップラーメンの開発と並行して、さまざまな製品開発を進めていた。
山ノ麓TAP ROOMで提供しているモーニングセットの食パンも、麦芽パン。この「Superflour」を使った製品のひとつだ。
麦芽パンでいうと、食パンだけではなく、惣菜パンや、ハードパン、新たな種類のパンへと展開するための試行錯誤をしていたり、さらには、食品だけにとどまらず、陶芸作品にも活かせないかと研究を進めていたりする。
何かをはじめるときというのは、あらゆる縁が絡み合う。
適材適所、プロジェクトを進めるために必要な人や、もの、場所が集まる。
はじまるから集まるのか、集まったからはじまるのか。そこに、縁が絡み合う。
「食パン以外の種類のパンも豊富に!」となれば、シクロに関わるあらゆる調理を統括している、パン職人の川副が。
そこに、「クッキー缶をつくろう!」となれば、シクロに加わった新たな協力者、パティシエの太田も力を添える。
「陶器にもSuperFlourを!」となれば、就労支援をする中で陶芸と向き合うこととなった、田中が奮闘する。
馬詰は思うのだった。
「関わるひとが増えるにつれて、プロジェクトの勢いがどんどん加速していくものだなあ。」
そう思うのも不思議ではない。仲間が増えた「BEER CAKES シリーズ」は、みるみるうちにシリーズとしての形が整っていったのだ。
このように、「やりたいこと」が生まれたところに、仕事の垣根なく人が集まってくるのは、新たな取り組みが多いシクロ「らしさ」なのかもしれない。
そんなある日のこと、山﨑から連絡が入る。
「BEER CAKESシリーズの販売先として、京都の町家店舗が確保できそうです。」
「BEER CAKESシリーズ」のための店舗『BEERCAKES KYOTO』の話が持ち上がった。
「『パン・製菓・カフェ・ちょっとだけビール。』のコンセプトで、店舗をつくりましょう。『2Fは畳敷きで、夜カフェ。』なんて、よくないですか?」
山﨑の言葉を聞いて、馬詰はそわそわした。
「憧れのまち、京都に自分たちの店舗ができるのか……。しかも、自分たちでもつはじめての店舗!」
馬詰は、学生の頃過ごした京都のまちへは思い入れもあり、まち自体に憧れがあった。そんな京都のまちに自分たちのお店ができる。楽しみである。
とはいえ、自分たちがこれから店舗をもつとは、どういうことなのか。自分ごととして、どうも想像がまだつかない。シクロ全体でいえば、飲食事業で店舗をもってきた経験がいくつもあるのだが、馬詰をはじめとする、今回のプロジェクトメンバーの中に店舗をつくった経験があるメンバーはいない。はじめてのことなのだ。
馬詰は思う。「『BEERCAKES KYOTO』のはじまりはいつだったかと、問われれば、この山﨑からの連絡がはじまりだろう。」と。
ただ、一連の「Superflour」を使った製品、BEERCAKES シリーズのプロジェクト自体は、もっと前からはじまっていたのだ。
では、なぜ今さらそわそわしているのか。
明確に自分たちがどこに進むのか、見えているようで見えていなかった状態から、「『BEERCAKES KYOTO』ができる。」この話が決まったことは、自分たちがどこへ進むのか、ひとつの大きな指針が決まった瞬間でもあった。目下の目標が決まった瞬間に、いろいろな感情が生まれたのである。
そわそわとは、心の中で鳴る、はじまりの音なのかもしれない。
「そわそわ?ふわふわ?そんな気持ちが心地よいような、悪いような。」
この見えないものへの、期待と不安と、なにかとともに、馬詰の一日が今日もはじまる。
つづく
text by コイケ マオ
Illustration by トミタリサ