#05 はじまりの場所と油っぽい香りの記憶

2023.02.25

PROFILE

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works

荒屋 美佳

経営戦略部 新規事業室 ディレクター
キャンプ・釣り・音楽・お酒・美味しいアテ・プロレス観戦が大好き。
観戦するのに飽き足らず、自分も絞め技が出来るようになりたい!と
最近グラップリングに目覚め、三角締めを習得。
いつか、好きなものを集めたレッスルマニアキャンプフェスみたいな事ができたらと淡く妄想中wooo!

馬詰 有依子

就労継続支援B型ディレイラ
サービス管理責任者・事業開発調整担当
大阪府堺市出身。生命保険の事務やクリニック医療事務を経て、2014年に株式会社シクロに入社。現在は、障がい福祉分野の就労継続支援B型ディレイラで就業支援に携わるほか、部門内でのイベント運営などにも取り組んでいる。

就労継続支援B型事業所 オートビュス

就労継続支援B型事業所 オートビュスでは、アップサイクルに必要な麦芽粕の乾燥工程を利用者様の作業として、ノリノリで明るいスタッフと共に取り組んでいます。
一人では出来なかった事も、ゆっくりと、みんなで協力して成し遂げられる。あなたの中にある仕事の「やりたい」と、自立の「がんばる」をお手伝いさせてください。
見学・体験は随時受付中。

まるで洋画の世界に迷い込んだかのような「それ」を見てふたりで言葉を詰まらせたのも、今となってはいい思い出である。

はじめるよ、いや、いつでも、はじまるよ。
え、もうはじまってるの?

何かを製造するとなると、必要となってくるのが「つくるための場所」である。

ちょうどこの頃、麦芽粕でできたパンの製造場所を新しくつくる話も進んでいたため、パン工房兼カップラーメン工場となる物件を探すこととなった。もちろん就労支援の事業所としての役割も兼ねる。

つまり「パンも麺も就労支援も」ということだ。

必要な申請を通すことができるちょうどよい物件は、そう多くは見つからない。

そんな中、荒屋は馬詰とふたりで候補となる物件を訪れていた。

「レトロな建物だなあ。」

荒屋がこう思うのも当然である。90年前の建物とのことだ。

案内人に促され、いざ中へ。

中の様子はというと、残置物がより強くその場を演出しているのか、「お化け屋敷」「廃屋」といった言葉がしっくりくるような、なんとも言えない空気感だ。

「これは、ちょっとアレかもしれない……。」

言葉を失うふたりをよそに、案内は続く。

5階建てのこの建物に唯一あるエレベーターは、骨組みが剥き出しだ。

「こんなエレベーター、昔洋画で見たことあるよなあ。」

などと、荒屋は考えていたが、洋画でしか見たことがないようなエレベーターなのだ。階段で上ることを決意するのも当然である。階段を上り、全ての階を見回り思う。

「何かをはじめる場所として『陰』の空気感がある場所は、ふさわしくないのでは?」

良い点もいくつかあったのだが、この日荒屋が感じたこの物件への印象は無視できるものではなかった。

「ちょうどいい物件は、なかなか見つからないものだなあ。」

そんなことを考えていたある日のこと、候補として舞い込んできた物件がまた一つ。地図を見て荒屋は思う。

「この場所はもしや……。」

その場所は、荒屋も行ったことのある某中華料理チェーン店があった場所であった。

「な、懐かしい!」

後日物件を訪れた荒屋は、足を踏み入れた瞬間に懐かしさを覚えた。

荒屋は過去に、某中華料理チェーン店でバイトをしていたことがある。香りが記憶を呼び起こすというが、ふわりと香った油っぽい香りが、まさにという感じだったのだ。

螺旋階段がある2階建て。元飲食店ということもあり、排水などの環境が元々整っていた。改善の必要はあれど、大規模工事をすることなく使うことができそうだ。

そして何より明るい。

荒屋は確信した。

「ここで決まりで良さそう!」

荒屋の中の、油っぽい香りの記憶がまたひとつ増えた瞬間であった。

こうして新たにはじめるための場所も決まり、あとはカップラーメンの完成を待つのみとなった。

この「のみ」が大変であることは言うまでもないのだが。

つづく

text by  コイケ マオ
Illustration by トミタリサ

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