#04 「美味しい」の裏側へ

2022.11.01

PROFILE

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works

荒屋 美佳

経営戦略部 新規事業室 ディレクター
キャンプ・釣り・音楽・お酒・美味しいアテ・プロレス観戦が大好き。
観戦するのに飽き足らず、自分も絞め技が出来るようになりたい!と
最近グラップリングに目覚め、三角締めを習得。
いつか、好きなものを集めたレッスルマニアキャンプフェスみたいな事ができたらと淡く妄想中wooo!

馬詰 有依子

就労継続支援B型ディレイラ
サービス管理責任者・事業開発調整担当
大阪府堺市出身。生命保険の事務やクリニック医療事務を経て、2014年に株式会社シクロに入社。現在は、障がい福祉分野の就労継続支援B型ディレイラで就業支援に携わるほか、部門内でのイベント運営などにも取り組んでいる。

就労継続支援B型事業所 オートビュス

就労継続支援B型事業所 オートビュスでは、アップサイクルに必要な麦芽粕の乾燥工程を利用者様の作業として、ノリノリで明るいスタッフと共に取り組んでいます。
一人では出来なかった事も、ゆっくりと、みんなで協力して成し遂げられる。あなたの中にある仕事の「やりたい」と、自立の「がんばる」をお手伝いさせてください。
見学・体験は随時受付中。

馬詰は考えていた。

「即席麺業界の企業努力を身をもって感じる日が来るとは、人生何が起こるかわからないものだ。」

というのも、麦芽麺でできたカップラーメンづくりに苦心していたからだ。自身がいつも食べているカップラーメンの「美味しい」の裏側が、垣間見えた気がした。

はじめるよ、いや、いつでも、はじまるよ。
え、もうはじまってるの?

荒屋からワンタンスープを受け取ったあの日から、麦芽麺でできたカップラーメンの試作実験の日々がはじまっていた。

茹でて戻していた乾麺。果たして、お湯をかけただけで戻るものなのか。

「さて、はじめるか。」

馬詰は、オートビュスで乾燥した乾麺にお湯をかける。

そして、3分。

カップラーメンの待ち時間の多くは『3分』である。その『3分』だが、予想通りというべきか、麺は固まったままである。

続いて5分。

麺がほぐれたが、食べるとまだ芯があり、粉っぽい。

これだけ待てば、どうにかなるのではないかと10分。

まだらにふやけたその様子は、間違っても「美味しそう」とは言えない。麺はちぎれ、食感は団子のようにねっちゃっとしている。

時間が経てばどうにかなるものではないと察するには、十分な結果であった。

「デンプンがα(アルファ)化していない状態で乾燥した麺では、お湯をかけていくら待っても美味しい麺には戻らない。」

後日、試作中の『乾麺』を握りしめ、荒屋とともに太陽製麺所へ相談に訪れた馬詰は、聞き覚えのない言葉にポカンとすることとなる。

「アルファ化…?」

麺に含まれるデンプンを水と加熱することで、人が消化できる状態に変化させることを『アルファ化』といい、『生麺』をそのまま乾燥させて作った『乾麺』は、この『アルファ化』を経ていない。食べる前に茹でることで、初めて食べられる状態になる。

要するに、現状の『乾麺』にお湯をかけただけでは、そもそも『食べられる』状態にはなり得ないとのことであった。

「美味しいかどうか以前の問題じゃないか…。」

馬詰は、試作実験で食べてしまった麺のことを、思い出していた。

そうして、再び太陽製麺所の協力のもと、麺の改良がはじまった。

気泡の入り具合が麺の出来上がりに影響することがわかったため、まずは、生麺を現状よりも細く切り出すことにした。太陽製麺所から生麺のサンプルが上がってくると、次は乾燥段階の検討である。乾燥前に茹でるのか、はたまた蒸すのかなど、条件を変えては試作実験に取り組んだ。

この時、麺の改良と並行して、カップラーメンとして販売するための容器の検討もはじめていた。コスト面などの壁にぶつかり、思うようにことが進まない日々を過ごしていた馬詰のもとに、山﨑から一枚の写真が届く。

そこに写っていたのは、秋田出張中の山﨑が土産物屋で見つけたらしい秋田名物「きりたんぽ」のカップスープ。

マーケティングや、さまざまな観点で日々アンテナを張り巡らせている山﨑の目に留まったようだ。2日後には、その現物が馬詰の手元に届けられた。

「これはかなりいいかもしれない!」

馬詰は道が開けたような気がした。もちろん山﨑が意図していたマーケティングの観点から見てもとても良いのだが、実際の生産作業に進んだときの作業工程もイメージでき、コスト面もクリアしている。

就労の作業として考えた時に、どうなのか、ということはシクロでものづくりをするときに重要な観点のひとつなのだ。

この偶然届いたヒントをもとに、容器の検討が再び進みはじめた。

容器が決まれば、乾燥する麺の形状が決まり、また次の検討がはじまる。

検討に検討を重ねある程度形になってきた麺を、販売イメージに近い状態となったカップの中に入れ、お湯をかける。

「思えば、学生の頃、将来の選択肢の一つとして興味のあった食品メーカーの開発職。福祉業界へ進んだ今、カップラーメンの開発に関わることになるとは、おもしろくもあり不思議なことだ。」

お湯をかけた麺が戻るのを待つ間、馬詰はふと思うのだった。

シクロでは、あれよあれよという間に思いがけない経験を積んでいた、ということが稀ではない。むしろシクロらしいとも、言える。

そして、4分。

「まあ食べられる。」

これが正直な感想ではあるが、麺を食べたはずが団子を食べているような思いをした日と比べると「かなり食べられる。」のである。

しかし、馬詰は知っているのだ。

本当の「美味しい」を。

「食べられる」の頭に「まあ」をつけてしまう所以はそこにあるのだろう。

多くの段階を踏み、検討を重ね「美味しい」がつくられていたのだと、即席麺業界の企業努力を感じずにはいられない。そして、自身の中につくられた「美味しい」のイメージの根源、先人の努力の結晶に一歩でも近づくために、まずは「まあ食べられる。」から「まあ」がなくなるその先へ、目の前にあることをやっていくしかない。

つづく

text by  コイケ マオ
Illustration by トミタリサ

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