#03 美味しい麦芽麺をどうするんだいっ!

2022.09.01

PROFILE

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works

荒屋 美佳

経営戦略部 新規事業室 ディレクター
キャンプ・釣り・音楽・お酒・美味しいアテ・プロレス観戦が大好き。
観戦するのに飽き足らず、自分も絞め技が出来るようになりたい!と
最近グラップリングに目覚め、三角締めを習得。
いつか、好きなものを集めたレッスルマニアキャンプフェスみたいな事ができたらと淡く妄想中wooo!

馬詰 有依子

就労継続支援B型ディレイラ
サービス管理責任者・事業開発調整担当
大阪府堺市出身。生命保険の事務やクリニック医療事務を経て、2014年に株式会社シクロに入社。現在は、障がい福祉分野の就労継続支援B型ディレイラで就業支援に携わるほか、部門内でのイベント運営などにも取り組んでいる。

就労継続支援B型事業所 オートビュス

就労継続支援B型事業所 オートビュスでは、アップサイクルに必要な麦芽粕の乾燥工程を利用者様の作業として、ノリノリで明るいスタッフと共に取り組んでいます。
一人では出来なかった事も、ゆっくりと、みんなで協力して成し遂げられる。あなたの中にある仕事の「やりたい」と、自立の「がんばる」をお手伝いさせてください。
見学・体験は随時受付中。

「荒屋さんが、ドバイに転勤?!」

社内はこの噂で持ちきりである。

荒屋執筆で連載中のコラム『はじめるよ!物語』の編集者が荒屋に呼び出された。

「もうご存知かと思いますが、私、来週にはドバイに行きます。この物語を綴ることは、もうできません。」

平日の朝8時。ド◯ールは通勤前の人々で溢れかえっていた。そんな雑踏の中での、突然の表明に編集者は頭を抱えた。荒屋ほどの人材を短時間で一から探すのは簡単ではない。どうしたものか。

「そんな急な話、困ります!」

編集者はとりあえず困ってみせた。少し俯き反応を待つ。すると、横から声が。

「私がやりましょうか?」

荒屋の声ではない。

「先ほどから、お話し聞こえておりました。私、潜入ジャーナリストのコイケと申します。もしかするとお力になれるかもしれません。」

これが、コイケとの出会いだった。怪しさしかないが、このどこからきたのかわからない謎の自信に圧倒された編集者は、コイケに依頼してみることにした。

はじめるよ!物語、新章はじまる。

荒屋のドバイ行きは、単なる観光であったことは、また別の話。

はじめるよ、いや、いつでも、はじまるよ。
え、もうはじまってるの?

太陽製麺所の協力のもと構想と試作を重ね、納得のいく「美味しい麦芽麺」を完成させた荒屋だったが、その喜びを噛みしめる間も無く、次なる課題と向き合うこととなる。

そう、ここで終わらないのがシクロなのだ。

美味しい麦芽麺のレシピが完成したのはいいのだが、この生麺の賞味期限は、冷蔵保存で10日程。

これから販売していくとなると、どこに、どのように保管するのか、今後の汎用性など、さまざまな条件や可能性を考えなければならない。そうした中で、保存性を高める必要がでてきたのである。

そこで思いついたのが、「生麺」「乾麺」にするということだ。乾麺であれば、保存性に優れ、さらには、持ち運びもしやすく、気軽に手に取ることができる。

「この生麺を、自社で乾麺にすることはできないだろうか。」

そう考えた荒屋は、新たな協力者 馬詰を迎え、実験を開始した。

馬詰は就労継続支援B型ディレイラで就業支援に携わるほか、部門内でのイベント運営などにも取り組む、とても頼もしいシクロスタッフだ。

心強い相棒を迎え、最初に挑む実験は、「乾燥すること」。

乾麺の「乾」。乾燥させないことには、乾麺への道のりも、はじまらない。

「乾燥をするとなれば、シクロには、彼らがいるではないか。」

そう思った荒屋はすぐさま、麦芽粕の乾燥に一翼を担うオートビュスに協力を仰ぐ。

#01 『シンプルにまずい。笑』から、はじまった麦芽粕シンデレラストーリー。に登場)

すると、期待していた通りというべきか、思いのほかすんなり、「乾燥ができた」との報告が来たのだ。乾燥ができただけではなく、なんと、茹でたらちゃんと元の美味しい麺に戻るというではないか。

麦芽粕の乾燥技術を応用し、難なく麦芽麺の乾燥にも成功したのだった。

その一方で、出来上がった乾麺を入れる容器や、量の検討、そのために必要な実験を続けるある日のことである。

山﨑がこんなことを言い出した。

「これ、お湯注いでそのままカップラーメンみたいにして食べられたら、胸熱ですよね。」

と。

「たしかに、それなら胸熱だ。パッと食べられるなら、めっちゃいい!この美味しい麦芽麺の可能性が、さらに広がるに違いない!」

と、荒屋は思う。

と、同時に

「でも、茹でて戻る乾麺と、お湯をかけて戻すカップラーメンでは、似ているようで全くの別物なのでは?」

とも。

そこに、重ねるように山﨑が言った。

「容器はワンタンスープみたいな感じでどうですか?」

この頃、荒屋の頭の片隅には常に乾麺のことがあった。夕飯の食材を買いにスーパーへ行く際も、あらゆる麺類の容器やパッケージを見ては

「この形、いいんちゃう?」

などと考えたり、その容量を確認したりと、スーパーは荒屋にとって、実験のヒントで溢れた資料室のような場所であった。

ワンタンスープの容器がどのようなものだったか、ぼやっとなら思い浮かぶものの、実際に手にとりたくなった荒屋は

スーパーへと走る。

サイズ感や手に持った感じを

「体感したい。」

と。そして、

「馬詰さんとこの感覚を共有しなければ。」

との想いに駆られたのだ。

ひょっとすると、ワンタンスープの容器を確認したいと言うよりは、麦芽麺でできたカップラーメンへの道のりの一歩として、なにか行動に移さずにはいられなかったのかもしれない。

この、何かがはじまるときにしか味わえない高揚感に、荒屋は突き動かされていた。

そうして、もうすぐ完成かと思われた乾麺への道のりは、

再びふりだしに、
いや、はじまりの一歩目に戻ったのである。

つづく

text by  コイケ マオ
Illustration by トミタリサ

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