#01 「育てる姿勢」がチームやJリーグを向上させる。セレッソ大阪・森島寛晃が社長として考えているいろいろ

2023.04.27

シクロ代表取締役の山﨑と、いろいろな分野で活躍している山﨑が話してみたい人を呼んで対談するシリーズ。今回は前回に引き続き、株式会社セレッソ大阪の代表取締役社長、ミスターセレッソこと森島寛晃さん。チームオリジナルのビールづくりへのオファーをきっかけに繋がったセレッソとシクロ。後半では、根っからフォワードの森島社長のマインド術や、社長としてチーム育成において心がけていること、そして海外勢が活躍するなかでJリーグ全体を、セレッソをどう盛り上げていくのか話してもらいました。

前回はこちら
#02 サッカーとビール、大阪を共に盛り上げたい2人が話したセレッソ大阪のいまとこれから

PROFILE

森島 寛晃 氏

株式会社セレッソ大阪 代表取締役社長
広島県広島市出身。小学2年生で地元・広島の名門である大河FCに加入。静岡県の東海第一高校を卒業後、ヤンマーディーゼルサッカー部にプロ契約で入団。同チームが母体となってJリーグに参入したセレッソ大阪でプレー、チームを牽引する。2008年に引退し、アンバサダーや強化部を経て、2018年12月より株式会社セレッソ大阪代表取締役社長に就任。Jリーグの開幕連続得点記録(7試合連続)、オールスターゲーム最多得点記録の保持者。愛称は「ミスターセレッソ」「モリシ」。
HP : セレッソ大阪

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works

「緊張しい」だけど、ピッチに立つと冷静になれる

和気あいあいと盛り上がっていますが、森島さんは普段、緊張されることはあるんでしょうか?

森島 めっちゃ「緊張しい」です。

山﨑 でも、森島社長って愛されキャラやし、初対面の人ともお話されるのすごく上手じゃないですか。

森島 じつは緊張してるんですよ。イベントで小学校に行ったら子ども相手にも緊張するし、東京に出張行ったらそれだけで固くなってしまう(笑)。でも心の壁は常に取っ払わないといけないとは思ってるんですよ。

山﨑 僕も緊張しいなんです!ビールって緊張をほぐしてコミュニケーションを円滑にする役割があると思うんですけど、ビールをつくってる僕自身がビールに助けられることってあります。緊張しい森島社長は、試合ではどうだったんですか?!

森島 いやそれが、ピッチに上がる時は違ったんですよね。もちろんめっちゃ緊張するんですけど、「勝っていくぞ!」っていう闘争心が冷静になるスイッチになりましたね。サッカーをプレイするところと、社長業は緊張の質が違うのかもしれませんね。

山﨑 むしろアツくなりすぎることってないんですか?緊張とはまた別のベクトルだと思うんですけど。

森島 ありますあります。記者席とかで試合観戦してるときは、めっちゃ我慢して平常心を装いますけど、空き部屋で試合見てるときなんかは、スタッフに「めちゃめちゃ怖い顔してる」って言われます(笑)。人がいると緊張が勝って静かになるんですけど、僕だけだったり、スタッフだけだとアツくなっちゃう。こないだ、この部屋で観戦してた時もありました。試合を追っかけるあまり、何回もガラスに頭突きしちゃうんですよ。試合後に窓を見たら、ガラスに僕のおでこの脂がハンコみたいについてました。

山﨑 (爆笑)。

森島 もちろん、腹立って頭突きしたわけじゃなくて、夢中になりすぎてなったんですよ(笑)。サッカーの試合は今でもサッカーだけのスイッチが入るんでしょうね。

山﨑 ちなみに、サッカー選手じゃなかったら何になってたとかありますか?

森島 それがですね、これいいなと思ってたのが、トラックの運転手なんです。昔、お母さんの弟がトラックに乗ってたんですよ。それで、小さい頃はよく助手席に乗せてもらったんです。無線で連絡をとりながら大きい車を操る姿がめっちゃ格好よくて、トラックの運転手もええなあ〜って思ってましたね。

山﨑 トラック運転手になってた世界線があるんですね。

森島 運転手だったら、アツくなってガラスに頭ぶつけてちゃ絶対ダメですけどね(笑)。

根っからのフォワードだから、見返すのは成功体験だけ

森島社長は、選手人生のなかでポジションやプレースタイルが変わったことはあるんですか?

森島 プレースタイルは経験を重ねるうちに変わったと思いますけど、ポジションはフォワードか中盤ですね。ディフェンスはやったことないですよ。

山﨑 根っからのフォワードですよね。森島社長のように、攻撃の選手が監督される場合、守備ってどう考えて選手を選ぶものなんですか?

森島 僕は監督をやったことがあるわけではないので、あくまで僕個人の意見にはなりますけど。フォワードは「ディフェンスにこんな奴がいたら嫌だな」ってわかるじゃないですか。逆も然りで。過去、うちのセレッソでも、守備だった方が監督されてた時代は、おもしろい攻撃をするチームができていたりもしたんですよ。

山﨑 なるほど。自分が現役時代に「嫌やったこと」がヒントになるのか……。

森島 監督みんながそうじゃないかもしれないですけどね。たとえば、ユン・ジョンファン(※1)がサガン鳥栖(※2)で監督をやってたときに「自分も走るのは苦手だったけど、サッカーは走らないとサッカーにならない」って言ってましたね。現役の時の経験が後になって活かされることはあると思います。

山﨑 森島社長も引退されてからサッカー観は変わりましたか?

森島 守備も大事だなって強く感じるようになりましたね。選手時代は「3・4人いたら守れるだろう」と思ってたんですよ。

山﨑 それは極端すぎる(笑)!

※1 ユン・ジョンファン
大韓民国出身の元サッカー選手、サッカー指導者。現役時代のポジションはMF。
2000年に日本のセレッソ大阪に入団、2003年の移籍までプレー。
引退後は日本や韓国のクラブチームなどで監督を務める。

※2 サガン鳥栖
佐賀県鳥栖市をホームタウンとするプロサッカークラブ。
2022年現在、J2からJ1へ昇格後J2への降格経験がない唯一のクラブ。

森島 いやあすみません……!ほんとに前への意識のほうがすごく強かったので。でも、守るというところがなければ、しっかりとした攻撃もできないんですよね。そこは試合をピッチの外から俯瞰で見れるようになったというのが大きいかもしれない。選手時代は自分が点取ったところぐらいしか見返してなかったですからね。

山﨑 自分の試合の録画とかは見られてたんですか?

森島 ……えっと、点取った試合だけ見てました。

山﨑 (爆笑)。

森島 そりゃ見ますよ!点取ったところだけ!

山﨑 それはポジティブな見方ってことですよね。反省するために試合を振り返るとかはないんですか?

森島 負けた試合とかはあんまり見なかったです。これは言い訳に聞こえるかもしれないんですけど、自分で見なくても、チームで必ず振り返りをしますし。自分が「あのときあかんかったな」っていうのは言われなくてもわかるんです。でも、自分が点を取ったときの映像は、見返すことで気持ちよく次の試合に挑戦できるんです。点を取れた感覚を忘れずにしておくほうが、僕のなかでは大事でしたね。

山﨑 モチベーションをコントロールするというか。

森島 そうですね。でも自分の失敗も含めた映像で自己分析する人もいると思います。もしかしたら、そうやって分析できる人が監督になってるのかも(笑)。

セレッソは世界で通用するための「個人の力」を、自分で見つけられるよう育てていく

いま、森島社長がセレッソで大事にしていることってなんなんですか?

森島 選手の育成を大事にしてるところですね。個人の選手たちが世界で戦えるような技術をしっかりと身につけられることと、個人の力を大事にしてますね。

山﨑 森島社長は自分の現役時代から、自身の活躍も含めて日本の「世界に通用する選手が生まれていく変遷」を間近で見てきたわけじゃないですか。そのうえで、個人の力が重要だって考えているんですか。

森島 どうしても海外と比べると身長差があるので、普通に高さで競い合っても勝てない。スピードを武器にして相手より先に走ってボールを受けるとか、チーム全体の動きを見る目を培って、最適解のサポートをするとか、自分の得意なことをうまく伸ばして、足りないところをカバーする、スキルの駆け引きがちゃんとできる選手は重要だとは思いますね。

山﨑 そういう個人の力って、どのあたりで見えてくるものなんでしょうか? たとえば、子どもの頃から神童とか言われてきた人のほうが力が見えやすいとか。

森島 アカデミー(※3)のセレクション(※4)なんかでも感じることですけど、神童じゃなくてもいいんです。特徴があって今後なにかで伸びそうやなってほうが個人的には好きですね。

山﨑 個人の力ってどういうタイミングで花開くんでしょうか?

森島 全てがそうではないですが、反骨心というか「なにくそ」って思うものを持ってるほうがポテンシャルがあるんじゃないですかね。悔しい思いを経験することも大事だと思いますね。悔しさのなかに、上手くいかないことを改善しようとか、次こそはがんばろうという目標が出てくると思うので。個人の力は、自分自身で見つけることも大事です。アドバイスしたくなる気持ちをグッと堪えて、ある程度見守ってあげるのは大事なことかなと。

山﨑 は〜〜!めっちゃ勉強になります……!!

※3 アカデミー
若手選手の育成を目的としてサッカークラブや国家が設けた組織のこと。

※4 セレクション
チームに所属するメンバーの選出やトレセンメンバーの選出などを行う際の試験のこと。

Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
Photography by 福家信哉

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