#01 悔しいから対等でいたい、絆は怖いからバラバラでいい。都市型ローカルフェス運営の根っこにあるもの
2022.12.09
シクロ代表取締役の山﨑と、いろいろな分野で活躍している山﨑が話してみたい人を呼んで対談するシリーズ。今回の対談相手は、毎年秋に兵庫県・伊丹市で開催される関西最大級の無料音楽フェス「ITAMI GREENJAM」を主催する大原智さん。互いにアーティストを辞したというコンプレックスとの向き合い方、そしてフェスという場づくりから生まれくるものとは? かねてより念願だった自前のフェス開催を目前に「捻くれ者」同士が語り合いました。
PROFILE
大原 智 氏
一般社団法人GREENJAM代表理事、music&culture neonM(ネオンエム) 代表取締役
福島県郡山市出身。両親の転勤により4歳の時に兵庫県伊丹市に移住。中学校時代に兄の影響でロックを聴き始め、高校進学と同時に自身もバンドを結成。2004年にインディーズデビューを果たし、2007年のバンド解散まで神戸を中心に活動する。2010年、音楽スクール・スタジオレンタル事業などを手掛けるmusic&culture neonMを開始、2014年からは関西最大級の無料ローカルフェスGREENJAM主宰している。
HP : ITAMI GREENJAM
HP : 一般社団法人GREENJAM
山﨑 昌宣
株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表
大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works
シクロがフェスをやりたいと思った時、シンパシーを感じたのがGREENJAMだった
山﨑さんは大原さんのサポートで、ご自身でフェスを開催されるそうですね
山﨑 2023年4月の8・9日で、「音楽とカルチャー、時々ビール」をキーワードにしたフェスを開催予定です。場所は大阪天王寺公園エントランスエリア、通称「てんしば」。ただ僕たちはフェスを主催する経験値がまだ全然ないので、僕たちが足りないところを大原さんたちにサポートしていただこうと。
大原 おもしろいのが、ブリュワリーが主催するフェスなのに、ビールの立ち位置が「時々」なんですよね。これはどういう意図があるんですか?
山﨑 かねてより自分達でビアフェスをやりたいと思ってたんですよ。ただ、一般的にビアフェスと呼ばれるものって、対象がビール好きな人だけなんですよね。売る側はそれでいいけど……。
大原 うんうん。
山﨑 僕自身、若い頃バンドやってた経験もあるし、ライブやフェスなんかで、お酒が音楽を聴くときのバイブスをグッドからベター、ベターからベストにに引き上げてくれる体験を何度もするなかで、単にビールを飲むだけじゃない催しをやりたいなって。でも、僕たちは音楽フェスのやり方がわからないので、いろいろ外に頼らないといけない。フジロックほど大規模じゃない、たまたま通りかかった人がふらっとくることもできる、音楽とお酒と街の空気とが一体になったようなフェスってなんやろなって考えたとき、「伊丹GREENJAM」やなって思いついたんですよ。
大原 それで以前連絡をいただいたんですよね。
山﨑 そう、不躾で恐縮なんですが、突然に「僕もフェスやりたいんです!」ってオファーしたんですよ。でもまあきっと、そういう連絡って無限にくるんでしょうね。大小さまざまなフェス運営会社に連絡したんですけど、僕らみたいな素人に対して、色良い返事ってほとんど返ってこないんですよ。でも大原さんは違ったんです。なんで返事してくれたんですか?
大原 まずビジネス的な話をすると、うちってGREENJAMを主催するほかに年間7本くらいフェスティバルの企画制作をやってるんですよ。だから、依頼頂いた事自体に関しては何も思わなかったんです。ただ、山﨑さんというキャラクターにはなんかシンパシーを感じたんですよ。
山﨑 ちなみに依頼を断ることってあるんですか?
大原 依頼いただいてからその先、話を詳しく聞こうとか受けるかの判断は、単純に主催者さんの熱量によりますね。難しいんですよ、熱量がないとフェスをやるって。フェスの知識あるとか、音楽業界にいるとかぶっちゃけどうでもよくて、最後まで一緒に伴走出来るかとか、イベント成立させるための覚悟があるかとかですね。
山﨑 ちなみに、僕はオファーのメールで演じきってました。「何があってもケツ持ちます!!」って(笑)。
大原 演じるっておっしゃいますけど、でもきっと本気でやりたいと思ってて、ケツも持つ覚悟があるんだろうなと思いましたよ。じつは僕、山﨑さんのこととか株式会社シクロの取り組みとかをめっちゃ調べたうえで思ったので、多分大丈夫です(笑)。
「表現者たちへのコンプレックス」を解消したい
来年で10周年を迎えるGREENJAMですが、あの規模を続けるモチベーションはなんなんでしょうか。
山﨑 GREENJAM、10年目ですよね。すごいですねえ。
大原 ありがとうございます。コロナ禍でいろいろできないことも多かった数年を経ての大きな周年なので、やりたい事が多くて大変です。
山﨑 毎年「今年めっちゃええなあ」っていう回を重ねてきてるじゃないですか。モチベーション下がったりしないんですか?
大原 勝手にではあるんですが「続けること」自体に責任を感じてて。続けることが前提なので、そもそもモチベーションが下がっちゃったからやめるとかでは考えてない様にしてますね。イベントって打ち上げ花火みたいなものじゃないですか。花火をどーんと上げることを最初の方は大事にしてましたけど、最近はGREENJAMを開催したことで生まれるストーリーに注目しようって考えてますね。
山﨑 その「開催することで生まれるストーリー」っていうか、目的って何なんですか?
大原 目的というか、こう思ってますよっていうのがふたつあって。ひとつは、GREENJAMを続けることでうちの認知が広がれば、いろんな物事がスムーズに進めることができるっていうこと。これがひとつ。
山﨑 はいはい。
大原 あともうひとつ、これは初年度からそうですけど、「表現者達へのコンプレックスの解消」なんですよ。
山﨑 あ、それわかる!
大原 もともと僕自身バンドマンだったんですよね。でもいろいろあって音楽で食っていくことはできなかったんです。だから、いま現役で音楽で活躍している表現者達にコンプレックスがあるんですよ。
山﨑 うわ〜!!めっちゃわかります。
大原 僕は、僕ができることで彼らに報いたいんです。僕は場を用意する事しか出来ないから、そこで毎年再会して、彼らと対等の存在でありたいって気持ちですね。ずっとやってるうちに憧れのアーティストがイベントに関わってくれるようになったのも、コンプレックスがうまくアウトプットに昇華した瞬間ですね。
山﨑 僕もね、バンドやってたって言ったじゃないですか。ジャンルでいうとシューゲイザーのロックなんですかね。「ヨ・ラ・テンゴ」とかめっちゃ影響されつつ、そのあとエフェクター使うのにハマって、フワッとした音にフリースタイルのラップ乗せるっていうやつになって。
大原 音楽性的に時代が早いですね。
山﨑 でも最後はノイズしかやってないんです。アンプでハウった音にリバーブかけた音をリバースして、フットスイッチでチョップかける……みたいな。ただ、マイク持たせたらいちばんカッコいい、若いボーカルが他に引き抜かれちゃって。残ったのはフワッとした音しか作れないおっさん3人だったんです。華のないフィッシュマンズみたいな。
大原 あっはっは!!(爆笑)。どんよりしてますね!
山﨑 そんなんやからいろいろやったけど結局終わっちゃったんですよ。だから僕は音楽で食ってる人に悔しい思いがずっとあった。フェスに行った時に心から楽しめなかった瞬間も若い時はありましたし。そうそうそれで、音楽への憧れと同じように飲食店への憧れもすごくあって。
大原 個人商店で街のイケてる子が集う飲み屋って、みんなの憧れですもんね。
山﨑 そうなんですよ。飲食って開業のハードルも比較的低いですけど、それゆえに突出するには並大抵の努力じゃだめなんですよね。割の合わない世界だとも思う。もしやるなら、損してもいいから続けるバイブスがないとだめだと思ってたんです。
大原 なるほど。でもいま、ビールもつくってるし飲食店もされてますよね。
山﨑 そう、実際に僕なりの経験の積み重ねによってコンプレックスは解消されてきた感はありますね。「俺は俺でやってる、大勢の前で歌うことだけが花道ちゃうぞ」っていうね。しかも歳をとってきて、よりコンプレックスはなくなってきました。ただ、現状のままでいいやってわけでもなくて。会社の売上自体は介護とかのほうが俄然大きいけど、ビール醸造の名前がありがたく広まってきたなかで、いいコンテンツを自覚的に動かしていかないとなって。それで、もしかしたら自分もフェスやれるんちゃうかなって。
大原 うんうん。
山﨑 まさに表現者たちとの再会ですね。憧れのアーティストが、僕たちがつくった場で歌って、僕たちがつくったビールを飲んでくれたら。それでお客さんたちが喜んでくれたら、ほんまにコンプレックスがきれいさっぱりなくなる気がするんですよね〜。
大原 さっき、勝手に山崎さんの事調べてたって言いましたが、まさに今お話してくれたような背景を、勝手に感じてたんですよ!
山﨑 ほんまですか!いや、うれしいな〜!!
大原 だから「一回喋りたい」ってメールしたんですよ(笑)!
山﨑 いやほら、僕も擦れてるから……(笑)。
Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
Photography by 福家信哉