#02 悔しいから対等でいたい、絆は怖いからバラバラでいい。都市型ローカルフェス運営の根っこにあるもの

2022.12.09

PROFILE

大原 智 氏

一般社団法人GREENJAM代表理事、music&culture neonM(ネオンエム) 代表取締役
福島県郡山市出身。両親の転勤により4歳の時に兵庫県伊丹市に移住。中学校時代に兄の影響でロックを聴き始め、高校進学と同時に自身もバンドを結成。2004年にインディーズデビューを果たし、2007年のバンド解散まで神戸を中心に活動する。2010年、音楽スクール・スタジオレンタル事業などを手掛けるmusic&culture neonMを開始、2014年からは関西最大級の無料ローカルフェスGREENJAM主宰している。
HP : ITAMI GREENJAM
HP : 一般社団法人GREENJAM

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works

「みんなで肩組むなんてしなくていい」
当日は主催者も詳細を把握しないGREENJAM

山﨑 なんか勝手に、フェスって華やかな世界だと思ってたんですよ。イベンターとかオーガナイザーとか。けっこうブイブイいわせてお金にシビアなんちゃうかって認識もあったから、大原さんへのシンパシーとか、アツいこと言ってくれるのとか、いいなあって思ってます。

大原 せっかくなので僕のこともより知ってほしいんですけど、僕って、山﨑さんが今おっしゃった様なオーガナイザーじゃないんですよ。コンプレックスの解消とは言いましたけど、そもそも自分は表現者じゃないって感覚があるんです。自分のかっこいいと思うものを多くの人に知ってもらいたいっていう欲求の延長にフェスがあるイメージ。

山﨑 へえ……。知らなくてごめんなさい、じゃあ大原さんのGREENJAMにおける役割ってなんなんですか?

大原 これはね、詳しく説明しないと分かんないくらい多岐に渡るのでザックリにはなっちゃうんですが、主に調整です。行政との交渉、物理的な土地の場所を確保すること、資金集め……それら諸々を整えきったら3・4月になって、開催に向けたディテールを詰めていくことになる。ディテールの詰めは、僕が思う表現者にお願いするんです。だから「フェス内における表現物」に関してはそれぞれの自走なんですよ。当日、アーティストたちがどんな表現をしてるか、僕はよくわかってないところも多いです。

山﨑 信頼のおける表現者がいるからこそ頼めるんでしょうけど、それって不安になりません?なんかこう、GREENJAMらしくない表現がでてきたらどないしよとか。

大原 「GREENJAMはそういう表現は場違いだよね」ってする事が、そもそも違うと考えているんです。あ、もちろん公序良俗に反するとか、差別的な振る舞いをするとかは表現以前の問題なので、ないものとして考えてくださいね。話を戻すと、僕は「偏った表現」にすごく恐怖を感じる人なんです。

山﨑 イベントに共鳴した似たような人が集まることで濃い空間ってできるし、フェスに関してはそれが評価されてる節もあるじゃないですか。

大原 そうですね。でも僕はそれが怖いんです。少なくともGREENJAMは「俺たちの、それぞれの文化祭である」っていうコンセプトがあるんです。「俺たちの文化祭」じゃない。フェスってよくコミュニティづくりの文脈でも語られることがあるんですけど、「コミュニティこわー!」って思ってます(笑)。強固になればなるほどコミュニティの外も色濃くなる。偏ることで分断が明確になるのが怖いんです。

山﨑 なるほど……。

大原 なので自分がやるイベントにおいては、オルタナな奴もハードコアな奴もポップスな奴も、音楽が好きな人もたまたま近所に住んでるだけの人も、普段関わることもない人たちが一緒の空間にただいるだけでいいんです。肩なんて組まなくていい。バラバラな人たちが一緒の空間にいるにはどうすればいいかをいっつも考えてるんですよ。

山﨑 捻くれててアレなんですけど、僕も「手を取り合う」とか「絆」とかを前提に持ってこられると辛いのでわかります。ステージ上でアーティストが「今日はみんなで楽しんでいこうよ〜!」みたいなコールは自分やったら絶対できない。だってみんなが同じ水準で楽しむかどうかはわかんないじゃないですか! 

大原 ひねくれてる〜!!わかる(笑)!

山﨑 わかります!?

大原 わかりますよ。まあ、僕も自分では言いませんが、ステージ上の皆さんは全然言ってくれてぜんぜんいいんですけどね。「みんな楽しんで欲しい」はそりゃ本心ですし。それもバラバラでいいです。

山﨑 ただ、なんやろうな……。みんなの向く方向がバラバラやったら、しっちゃかめっちゃかになるじゃないですか。でもGREENJAMは、そうはなってない。バラバラを容認するなかでのワンルールってないんですか?

大原 ワンルールですか。

山﨑 僕らがやってるクラフトビールのお店は、全国のブリュワリーからもビールを仕入れるんですね。で、ひとつ決めてることが、そのブリュワリーの醸造量が500L以下ってこと。それ以上の醸造量にになると有名度合いのステージも上ってきちゃう。500L以下であれば、そこから先はセレクションは店舗の責任者にお任せしてるんですよ。

大原 そういうワンルールか……。考えてみれば「この範囲だよ」っていうのはあるかもな。あのイベントって、来場者の半分が家族なんですよ。家族連れむけのフェスを狙ったわけではなくて、たまたま昆陽池公園がそういう場所だったから。来場者の半数はファミリーっていうデータがあるし、表現者に渡す写真資料のなかにもその様子は映ってる。だからいくらアバンギャルドで尖ってる人でも、家族連れや子ども達がめちゃくちゃいる風景のなかでどうするかっていう一定の「思いやり」「愛」みたいな物は出るのかもしれない。

山﨑 それはまさにさっき言ってた自走ですよね。各々が各々の判断で動くっていう。

大原 そうなんです。バキバキさんにライブペイントお願いしたら、めっちゃムズムズしてました(笑)。

自身の過去を受け入れたら、自分の想像力をこえたいまができてきた

大原さんの手をこえて自走するGREENJAMですが、自分が手を加えたいと思うことはないんですか。

山﨑 僕はけっこう、現場の人たちに任せてるところがあるとはいえどもまだ口出ししたくなるところがあるんですよね……。

大原 僕もそうですね……。口出ししちゃいます。でも、それにさえ年々飽きてきてるところがあるんですよ。あれこれ口出しするのって疲れるじゃないですか。それと、自分のなかでの正解だけにとらわれると、結局天井があるんですよね。最近は、自分が思いもしなかったこと、想像を超えるところに感動することが多いです。

山﨑 それって昔からですか?

大原 いえ、自分の想像力だけでやることに途中で飽きたからです(笑)。

山﨑 わかります。ただ、うーん。僕もその……口出してまうところはありつつ、自分の意図を振りかざすのもおもんないなとは思うんですよ。どっちやねんって感じですけど。

大原 なんで口出ししてしまうんやろって考えたことがあるんですけど、いまいったん最適解になってるのが距離感の問題やなって。近い人ほど目につくし気になるから口出ししてしまうんですよ。一定の距離を保ちながら人に託すと、ほどよく衝突もせず、自分の想定外のおもしろい結果が出てくるんちゃうかなって。

山﨑 なるほどなるほど。

大原 その状態でビジネスも成り立ったらいいですよね。というわけで、いまフェスの企画運営の仕事のほかに始めてるのが不動産屋なんですよ。サブリースの不動産屋というか。

山﨑 大原さんが大家的な立場で、誰かに場所を貸してる?

大原 そうですね。いま取材してるこの場所「MOGURA CAFE」も、僕がオーナーではあるんですけど、形態としては店長に貸してるんですよ。だからお店づくりには一切僕は加わってないんです。MOGURA CAFEの奥にはレコード屋があるんですけど、それも別の人に貸してて。他にも、阪急伊丹駅前の商店街のなかに300平米のスペースを持ってて、5店舗に貸し出してるんです。

山﨑 人に完全任せてたら、口出ししようがないですね。

大原 使われなくなったスペースを僕が管理する形で活用しているので、地域にも還元できてる。こういうのって「家守」っていうらしいですね。

山﨑 完全にまちづくりの人ですね。

大原 結果的にですよ!人からいわれて「僕らってまちづくり会社やったんか〜!」って感じです(笑)。

山﨑 GREENJAMも、伊丹の街にかなり影響を与えてますよね。人を伊丹に呼ぶきっかけにもなるし、こういうイケてるイベントが近所でやってることで地元の人のモチベーションも上る。もちろん、まちづくりありきでGREENJAMをはじめたわけじゃないでしょうし、それも結果論でしかないですけど。

大原 おっしゃる通りですね。結果的に伊丹の街に還元できるイベントになっただけです。さっきの想像を超えてくるのがおもしろいって話ですけど、いま「まちづくりの会社だ」って言われるようになるとは、GREENJAMをはじめたばっかりの頃は思いもよらなかったし、思いもよらなかったからいま家守の取り組みができてますね。

山﨑 そういう、想像を超えたところで他者からされるラベリングって、過去の自分を昇華することにもなりません? 僕ね、40歳をすぎてから取材のオファーをいただくことが増えたんですけど、僕が想像してた山﨑像をこえた自分の在り方を教えてもらえるようになったんですよね。

大原 はいはいはい。

山﨑 「山﨑さんってこうですよね」って、僕にラベルを貼ってくれることで、売れないバンドやってた意味づけができるようになりました。やっぱり歳を重ねていくと、少々のものじゃ喜べなくなってきちゃうじゃないですか。他者からの目線って「あ、そう思ったはるんやったらコレやってみようかな」って動くきっかけになるし、それが新しい喜びに繋がっていくのかなあって。

大原 自分では発生させられない好奇心ってありますよね。いままでにないような熱を与えてくれるのはもう自分の想像力の中にないのかもしれないです。

山﨑 僕は元来の性格は大人しいタイプなんですけど、それを見破られた時ってドキッとしちゃってたんですよ昔は。でもいまはそれも受け入れて、素直になれてますね。それに、ラベリングされてるって、他者が僕に役割を与えてくれてるってことなんですよね。

大原 役割がある方が圧倒的に楽ですよね。

山﨑 介護事業のほかに、いまこうしてビールもつくって、お店もやってて、フェスもやろうとしている状況は、過去の自分ごと受け入れられて、想像もしなかった周りからの評価があったからかもしれないです。

大原 うんうん。

山﨑 あ、でも、もっとあの時ああしてたら、もっとうまいことバンド続けられてたんちゃうかなって、思ったりはしますけどね……。

大原 それはね!思いますよね!僕も思いますよ!

MOGURA CAFE

GREENJAMが管理する「GREENJAM BUILDING」内にあるお店。音楽イベントや日替わり店主など、様々な表現を受け入れるハコとして機能している。

営業時間
月曜 15:00〜21:00
金曜 17:00〜21:00
土曜 12:00〜15:00/17:00〜21:00
日曜 12:00〜19:00
火曜〜木曜定休日
Instagram : xmogura__cafe072

Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
Photography by 福家信哉

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