#02 もっとおしゃれで楽しくていい。医療×デザイン×アートがもたらす新しい病院の可能性

2024.09.18

PROFILE

内田 宙司 氏

内田宙司整形外科/院長
東京都大田区出身。聖マリアンナ医科大学を卒業後、横須賀市の津久井浜整形外科で副院長として勤務。2020年に葉山町と横須賀市にまたがる湘南国際村に「内田宙司整形外科」を開院。アーティストによる新しい医療器具を提案する「Supporter Exhibition」の企画など、既存の整形外科のイメージを脱却する、楽しくてオシャレな医療の現場を提案し続けている。
HP : 内田宙司整形外科

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works

デートにテニスウェアで来る「ダサ内田」からの脱却とデザインとの出会い

先生がグラフィックデザインを独学で学びはじめたきっかけはなんでしたか。

山﨑 先生めっちゃオシャレですよね。昔からオシャレボーイだったんですか?

内田 ありがとうございます。服はね、完全に社会人デビューです。僕はもともとテニスウェアで一生過ごしてたような人だったんですよね。「おしゃれになりたいな〜」とは思ってたものの、デートにテニスウェアで来るような奴でした。

山﨑 いや〜(笑)。

内田 いやでもね、テニスウェアのなかではかっこいいの着てたんですよ。いまでも「いいデザインだな〜」って思えるようなやつで。まあでも、デートは違いますよね、へへへ(笑)。今度僕のお見合い写真を見てください。もうね、ダサすぎてね。抱腹絶倒の鉄板ネタなんです。

山﨑 あっはっは、まじですか!えー、想像つかへんなあ!

内田 妻と出会ったことは大きかったですね。彼女はアパレルの出身だったんですけど、そこから「ダサ内田」からの脱却がスタートしまして。あっ、いま、ダサ内田を知っている妻が受付で笑ってますね……。

山﨑 「ダサ内田」からの脱却!

内田 妻が働いていたお店の影響もあって、最初はカジュアルじゃなくてドレスに興味を持ちました。でも、似合う似合わないじゃなく、欲しいか欲しくないかで服を買っちゃってましたね。ラフシモンズのコートがどうしても欲しくて買ったんですけど、サイズが合わないから前が閉まらないんですよ。

山﨑 うわあ〜、いかにも「オシャレ1年目」って感じの空回りですね。

内田 そのうち、妻の交友関係が僕の方にも入ってきて、自然とアパレル周辺の友人が増えていったんです。カジュアルな服装も、友人たちから自然と教わった感じですね。

山﨑 デザインを自分で学びはじめたのは、やっぱりファッションを学んだってところは大きかったですか?

内田 そうですね。それは確実に影響していると思います。ただ、もともとデザインなんてものを知らない子どもの頃から、企業ロゴが好きだったんですよ。テニスウェアしか知らないけど、YAHAMAとかFILAとか。図工の授業で、糸鋸を使ってYAHAMAを彫ったりしてましたね。

山﨑 はいはい、それがデザインなんだとは知らないけど、かっこいい!っていうの、ありますよね。

内田 そういう、ロゴマーク好きが高じて、医学系の研究会のポスターつくってくれとか、開業する先生がロゴマークつくってくれとか、そういう依頼が来るようになったんですよね。当時の医者はみんなMacを使っていました。学会発表のスライドを作るソフトはAdobeしかなくて、Adobeが走るPCはMacだけだったんです。ただ僕はぜんぜんデザインソフトとかを知らなかったんです。使ってたのはPhotoshopくらい。

山﨑 症例写真の色調を変えるとかで使いますもんね。

内田 Photoshopでわからないなりに時間と労力をかけてロゴをつくってた時に、友人のひとりがIllustratorを教えてくれたんですよ。昔は今みたいに、YouTubeでチュートリアルを見るなんてこともなかったので、本当に手探りで。基礎的なところからコツコツやってたんですけど、そこで「デザインって楽しいな、好きだな」って感じたんですよね。

山﨑 そこで先生の医療とデザインがつながってくるわけだ。

内田 そうですそうです。デザインを学んで、アパレルを知るにつれて、いまの医療現場って面白くないな。なにかデザインやファッションの力をつかって、医療現場が抱えてる課題を解決できるんじゃないかなって思いはじめてきた。それで実現したのが2013年に開催した、医療装具×アートを題材にしたイベント「Supporter Exhibition」だったんです。

医療器具の機能性と見た目のオシャレさはデザインでもっと兼ね合える

「Supporter Exhibition」はどういう展示だったんですか。

内田 東京発のデザインやカルチャー、アートを発信する「TOKYO CULTUART by BEAMS」(※2)っていう、BEAMSのプロジェクトがあるんですけど、当時は渋谷のほうに店舗もあったんです。そこで発表した企画展になります。

山﨑 内田先生が企画されて、アーティストの方に声をかけて実現したんですか?

内田 もともとそんな大きくする予定ではなかったんですけど、院内にも置いてあるスツールをつくっている3D造形作家「GELCHOP」(※3)の森川さんと僕が仲良くさせてもらっていて。彼に「こういうことやりたいんだよね〜」って相談したのをきっかけにいろんな人や企業につながって、プロモーションの依頼なんかもきて、予算がついたんですよ。それで、しっかりプロダクトとして制作をみなさんに依頼して、展示が実現したんです。

※2 TOKYO CULTUART by BEAMS
2008年、”東京”から生み出されるアート、デザイン、カルチャーを世界に発信していくプロジェクトとしてスタート。アート作品やデザインプロダクツ、関連書籍、フィギュアなどの限定トイも展開。

※3 GELCHOP
モリカワ リョウタ、オザワ テツヤ、コバヤシ レイスケ、3人の工作好きによって活動を続ける3D造形グループ。

※4

山﨑 それって、みんながどこかで「もっとかっこいい医療器具があったらいいなあ」ってうっすら感じてたんでしょうね。そこで内田先生が発案したことで、うっすら感じてたことを形にする絶好の機会や!ってなったんじゃないかな。

内田 だと嬉しいですね。展示では、日本にはまだメジャーじゃないアイデアを持って来れたのもよかったです。この装具はドイツ製なんですけど、たとえば骨折するとこういう樹脂製のかっこいい装具をつけることができる。

山﨑 日本だと無骨な真っ白いギプスですもんね。あれ、治療後半になると薄汚れてきて見た目も悪くなるんですよね。

※4
待合室に並ぶオリジナルプロダクトと作品。ピンクの装具は内田先生の作品で 「スパイク」

内田 そうそう。僕は常々、装具は目立つものであったほうがいいと思ってるんです。目立たないと装具だってわからずに人がぶつかるかもしれない。治療中の憂鬱な時期でも、こんなの足にはめてたらちょっとかっこいいじゃないですか。医療器具の機能性と、身につけたくなるおしゃれさっていうのは、デザインの力でもっと兼ね合いが取れると思うんですよ。

山﨑 これもすごいかわいいですね。藍染めですか?

内田 そうです。これは藍で染めた包帯と三角巾。藍は抗菌性があるし、色がきれいだから服装のいいアクセントになるじゃないですか。それで、使い終わった後はスカーフとして巻いちゃったりして。

山﨑 眼鏡もそうじゃないですか。いまやオシャレアイテムとして定番ですけど、本来は視力を補うための装具ですもんね。ちゃんと視力も矯正できて、さらにいろんなデザインがあるから、目が見えにくくなるっていうネガティブなこともポジティブなことに変換できている。メガネのような価値観の変革が、いろんな医療現場で生まれてくる可能性があるって、めちゃくちゃおもしろいですね。

内田 せっかくのご縁ですし、なかなか関西と関東で遠いですけど、医療器具と介護福祉って領域が重なるところもあると思うので、なにかプロトタイプを一緒につくるとか、できたらいいですね。

山﨑 ぜひ!やりましょう!

行かなければいけない病院から、行きたくなる病院へ

先生の今後の展望について教えてください。

内田 診療としては今までも変わらず、患者さんの生活環境なんかもヒアリングしながら、その場の痛みも取りつつ、根本の解決にもつながるような治療を意識してやっていこうとは思っています。あとはアパレルの事業もがんばっていきたいなと。

山﨑  アパレルですか。

内田 医療現場で働く人や、患者さんたちがポジティブな気持ちになれるアパレルがあったらいいなと思っていて、「+ECR.U(プラスエクリュ)※5」っていうブランドを立ち上げたんです。僕が今日着てるのもそのプロダクトのうちのひとつなんですよ。

山﨑  かわいいですね。あとすごく機能的そうな……。

内田 ですです。ユニフォームやエプロンは、聴診器もガンガン入れられる大きさのポケットが複数ついていて機能的なんですけど、しっかり服として魅力があるというのを目指しました。2024年の春にサイトをリニューアルして、しっかりプロダクトとして提供できる体制を整えたので、いろんな医療現場に届くといいなと。

※5 +ECR.U
内田氏がプロデュースをするオリジナルプロダクトブランド。医師の気持ちが明るくなるユニフォームウェアや、患者さんがポジティブになれるアイテムなどを販売。医療用のアームスリングに着想を得たショルダーバッグなども展開。クリニックの制服もオリジナルプロダクトである「+ECR.U」のウェア。

山﨑  自転車乗ったり走ったりしてる身なので、この「機能的かつおしゃれ」っていうのはグッときますね……!

内田 あとは、場所づくり。ここの敷地って630坪くらいあるんですよ。

山﨑 広〜!!

内田 山がちなので建物を建てられる平地は実際少なかったり、条例で建物を建てちゃダメなエリアもあるんですけど、せっかく目の前が森なので、その自然を活かして別棟なんかも建てられたらいいなって思ってます。うちで働いている理学療法士が、免許をとって入谷式のインソールをつくりたいっていうんで。

山﨑 工房をつくるんですか。

内田 そうそう。よく職人が常駐しているお店なんかでは、ショーウィンドウで職人の仕事を目の前で見学できるじゃないですか。病院に来た人が「あれ、あそこで何やってんだ」ってちょっと見に来て、見に来たついでに森を散策して……。この場所を活かしてできることってたくさんあるなと思っています。

山﨑 自分の土地に森があって、開墾できる余剰もあって……っていいですね。展開がたくさんできるじゃないですか。ここにサウナを建てたりね。

内田 あ〜、サウナいいですよね。ここの土地、売主の社長が面白い人で「売りたくない奴には売らないぞ!」ってスタンスだったんです。なんとかお金は工面できそうだったけど、売ってもらえるかわからなかった。けど、無事に購入できたんですよね。

山﨑 へええ。

内田 こういう、自分の力ではどうしようもないことって「神の思し召し」だと思ってるんです。この土地を買えて、いまこういう医院ができているのも、神様から「やれ」って言われてるんだろうなって。

山﨑 あかんかった時は、自分が決めるんじゃなくて、その、神の思し召しかあ……それってすごい素敵な考え方ですね。

内田 どこかでストップがかかっても、それもまた神の思し召し。必要とされているなら道は開かれるからって、思ってやっています。まあ僕も55歳なので、なかなか気力が減ってきてしまっていて(笑)。でもまだやりたいことがあるんで、神様から待ったがかかるまでは活動の幅を広げていきたいですね。

内田宙司整形外科

〒240-0107 神奈川県横須賀市湘南国際村1-3-10(ファミリーマート前)

2020年、湘南国際村に開院。
骨折や捻挫などの一般外傷から膝、腰、首の痛み、四十肩、ヘルニア、関節リウマチ、小児整形、小児スポーツ障害など幅広い症例に対応。投薬や運動療法の他、神経ブロックやハイドロリリースなどさまざまな対処法の中から、「痛みを取る」ことを重視し提案するプログラムと、痛みが再発しない体づくりのために行うケアで多くの信頼を集めている。

【診療時間】
9:30〜13:00(受付開始9:20〜)
14:30〜18:00(受付開始13:00〜)
【リハビリ】
9:30〜18:00(受付開始9:20〜)
【休診】
日・祝日 / 土曜 午後
【HP】
https://u-h-seikei.com

Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
Photography by 福家信哉

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