#01 トレラン好きのイラストレーターだから描けるモノって?
仕事や走る魅力についてトーク&高尾山ラン

2023.09.01

シクロ代表取締役の山﨑と、いろいろな分野で活躍している山﨑が話してみたい人を呼んで対談するシリーズ。今回は大阪を飛び出し、東京・高尾山でトレイルランニング(以下、トレラン)!イラストレーター、佐々木寿江さんとの対談です。トレラン経験も豊富な佐々木さんは2年前に高尾山に移住した人物。ランに関するさまざまなイラストを手がけ、絵柄に一目惚れした山﨑からの熱烈オファーによって、Derailleur Brew Worksのラベルを多数手がけてもらっています。ユニークな注文も多いDBWのイラストについて、トレランの魅力、イラストレーターとして生きていく覚悟や積み重ねてきた努力について、山を走りながらお聞きしました。

PROFILE

佐々木寿江 氏

宮城県仙台市出身。1976年生まれ。「Derailleur Brew Works」のラベル制作を手がけるイラストレーター。2013年に地元で開催されたトレイルランのレース出場を機にトレイルランナーの道へ。2022年に高尾山の麓に移住。自身の経験を生かして、主にランニング関係の領域を中心に、イベントフライヤーやWebメディア、大会のノベルティTシャツのイラストなど、国内外のオファーを幅広く制作。
Instagram
@hissaxx1006
@hisae_illustration

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works

DBWの新しい扉を開いてくれた、キュートでポップなイラスト

今回はなんと高尾山でトレランしながらの対談です。おふたりが繋がったきっかけはなんだったんですか?

山﨑 佐々木さんはすごいんです。ご本人も走るし、イベントも企画するし、さらにトレランのイラストもたくさん描いているし。しかも佐々木さんって、トレランが好きで高尾に引越したんですよね。そんなトレラン好きのイラストレーターさんとお話させてもらうにあたって、ぜひ高尾山でいっしょに走ってみたいと。

佐々木 いい山なんですよ、高尾山。都心からのアクセスもよくて、トレラン仲間がこの周辺に住んでいるのもあって。コロナ禍でのリモートワークがきっかけに、移住してる人も多いみたいです。

山﨑 「高尾山口駅」は本当に山の入り口って感じですけど、ひと駅都心側の「高尾駅」は生活に必要なものが揃ってますもんね。

佐々木 そうですね。我が家は夫婦ふたりとも山を走るので、気軽に走りにいけて住みやすい場所だなあと思います。

山﨑 僕、佐々木さんにずっとお会いしたかったんです。いろんな銘柄のビジュアルイラストを手がけてもらっているのに、まだお会いしたことなかったですもんね。

佐々木 それでまさか高尾山までいらっしゃるとは思わなかったです(笑)。遠いところをありがとうございます。最初は仕事用のInstagramのアカウントに山﨑さんからDMをいただいたんですよね。

山﨑 そうそう、佐々木さんのイラストに一目惚れしたんですよ。2、3年くらい前に、アリーダちゃん(※1)っていう、めっちゃかわいい女の子のキャラクターのステッカーが、関西のトレラン勢に急速に流通したことがあって。

佐々木 (笑)。

※1 アリーダちゃん
ARIDA RUNNING CLUBの二次元メンバー。クラブに女子メンバーが増える気配がないことから生み出されたキャラクターで、佐々木さんが作画された。
https://www.instagram.com/arida_rc/

山﨑 アリーダちゃんは和歌山有田市の「有田ランニングクラブ」のイメージキャラクターで、それを描いてたのが佐々木さんだった。アリーダちゃんがとってもキュートでポップで、デザイナーの岡本くん(※2)とも「こういうテイストのイラスト、Derailleur Brew Worksにも欲しいね」って盛り上がったんです。

佐々木 ありがたいです。

山﨑 僕が常々ブランドづくりで大切にしてるのが、新規のお客さんを開拓すること。まだビールを飲んだことがない人や、ビールに対して苦手意識を持つ人に向けて、どうやってアプローチしていくかってところが重要で、佐々木さんのイラストがまさにピッタリだったんです。2銘柄のエチケットにイラストを描いてもらったのが、佐々木さんのウチでのデビューでしたね。

佐々木 そうですね、「BITE」っていうりんご入りのビールと、梨やジュニパーベリーが入った「SCHWA2」っていうビールと。

山﨑 実際、佐々木さんが手がけてくれた銘柄はめっちゃ売れたんです。阪神百貨店で「BITE」のポップアップをさせてもらったんですよ。「1000円以上するし、初日はそんなに売れへんやろ」と思って、200本持っていったんですが、それが1日で完売して。

佐々木 わ〜、よかった。それを聞いた時はうれしかったですね。

山﨑 缶ビールに1000円以上って、若い人はなかなか出しにくいじゃないですか。でも「このイラストがかわいい」って若い人がたくさん買っていってくれたんです。僕はその時に、イラストの持つ力というのをダイレクトに感じられたんですよね。そこから、佐々木さんに描いて欲しい!って銘柄をいくつかお願いするようになった感じです。

※2 岡本良
Derailleur Brew Worksアートディレクター。
ビールのパッケージやビジュアルを担当する他、ラン、自転車、ビールにと忙しい日々を送る。
いつか佐々木さんと生タイマンしたいすぐ体調が悪くなるランナー。
https://www.instagram.com/rideinthewoods/

運動好きじゃなくても、競争が苦手でも楽しいのがトレランの魅力

佐々木さん、山﨑さんともに魅かれる、トレランの魅力について教えてください。

山﨑 いっぱいあるんですけどね。僕はもともと自転車をやっていて身体を動かす習慣があったんですが、佐々木さんは運動って得意な方でしたか?

佐々木 いえもう全然。運動とは無縁でした。30歳を過ぎて、このままだとだらけた身体になっちゃうと思って、健康と美容のために走り始めたんです。

山﨑 それってひとりではじめたんですか。

佐々木 そうですね。ひとりで走ってました。年齢を重ねてきたのもあって、人間関係をシンプルにしていこうと思ってた時期で(笑)。ワイワイガヤガヤした空間にはいられるんですけど、だったらそれがすごく得意かって言われるとそうでもなくて。トレランは、粛々と必要なことを考えて、自分と向き合う時間が多いのがよかったんですよね。

山﨑 そうそう、トレランって、いい意味で無心になりきられへん時とかあるんですよね。

佐々木 めちゃくちゃ考えますね。補給をいつとるのかとか、道のコンディションとか、考えることが多い。長距離を走ることもあるので、補給を戦略的にとらないとペースが崩れちゃうから、目の前のことと先々のことを同時に考えないといけない。

山﨑 持ち物をどんな装備にするか、服装はどうするかとかもね。

佐々木 準備や体力づくりの段階から自分と向き合って戦略を考える必要があるってところもそうだし、トレランの魅力は、大会であっても競争ばかりじゃないって点も、私はいいなと思っていますね。

山﨑 あ〜わかるわかる、わかります!トレランって、やさしさにあふれた競技やと僕も思います。狭い山道だと、どうしたって道は譲り合いになるし、登山客の方もいてますし。道を譲り合って、挨拶するスポーツってなかなかないですよね。

佐々木 大会は制限時間や関門も設定されているのでタイムを気にしなきゃいけないんですけど、道が混んでたらちょっとペースを落としたり、歩いたりすることも多いですよね。

山﨑 立ち止まることもあります。マラソンだったら、立ち止まったり速度が乱れたりするのってよくないじゃないですか。でも、トレランは上り坂を歩くもよし、1回立ち止まって呼吸を整えるのもよし、景色きれいやなって意識を自然に向けるもよし。「こうしなきゃいけない」っていうのがないから、僕は向かい側から人が来たら喜んで譲るんですよ。

佐々木 そこで声をかけあったりして。あと、レースって最終ランナーも讃えられるんですよね。そこもトレランのすてきなところ。たとえば20時間かけてゴールしたトップがいたとして、最終ランナーが40時間……倍の時間がかかっても、その人がゴールした瞬間に拍手喝采が起こる。

山﨑 そうそう、頑張ったね!って。

佐々木 時間がかかっても讃えられるっていう不思議でやさしい世界だなと思いますね。

山﨑 佐々木さんって大会に出るだけじゃなく、佐々木さんが仙台に住まれてた頃、週1開催のグループランを主催して、それがいまも続いてるんですよね。300回とか、ものすごい回数重ねてませんでしたっけ。

佐々木 そうですね。コロナ禍でお休みした時期もありますが、ほぼ毎週開催してるのを約7年続けてるので、それくらいの数にはなってるかな。仙台を離れた今は仲間が続けてくれています。

山﨑 毎週ってすごいなあ。

佐々木 元々人づき合いが苦手だったので、わたし自身こんなに続くと思ってなかったし、人が集まるとも思ってなくて。なんとなく始めたものを続けてたらこうなったっていうか……。多分、はじめた何かを持続することは得意なんですね。

山﨑 人づき合い苦手なのに、なんでまたイベントを立ち上げたんですか。300回もやってると、けっこうな規模のコミュニティになるじゃないですか。

佐々木 当時まだトレランって、東北ではぜんぜん人口がいなかったんです。あ、私が知らなかっただけかもしれませんけど……。さらにコースが分からなかったり、装備、熊問題など、ロードを走るのとは違って気軽に走りに行けるわけじゃない。特に女性がひとり山に行くとなると、結構ハードルが高くて。

山﨑 はいはい。

佐々木 「ひとりでも平気です!」って人はどんどん走りに行けると思うんですけど、「行きにくいなあ」って思ってる人は私の他にもいるだろうなと。それで、気軽に一緒に走れる人を見つけられるようなコミュニティの場ができたらいいなと思って立ち上げたんです。最初は小規模で2、3人くらいではじめてたのが、その友達が、知り合いが……って人数が増えていって。

山﨑 「あの人が行ってるなら私も行ってみたい」的な。

佐々木 そうですね。人間関係をシンプルにしようと思っていたのが、結局トレランに出会ってから真逆になってしまいました。スポーツ経験者じゃなくて、私も含めてもともと文化系だった人が多いです。走りはじめちゃうと自分のペースで進められるし、居心地よく思ってくれている人がいるのかなと。うれしいですね。

山﨑 ひとりで走ってはいるけど、何かあったら声をかけあえるし、広い山のなかにあって「孤独じゃない」って思えるのがいいんでしょうね。そのへんもトレランの魅力ですよね。


Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
Photography by 福家信哉

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