#02 トレラン好きのイラストレーターだから描けるモノって?
仕事や走る魅力についてトーク&高尾山ラン

2023.09.01

PROFILE

佐々木寿江 氏

宮城県仙台市出身。1976年生まれ。「Derailleur Brew Works」のラベル制作を手がけるイラストレーター。2013年に地元で開催されたトレイルランのレース出場を機にトレイルランナーの道へ。2022年に高尾山の麓に移住。自身の経験を生かして、主にランニング関係の領域を中心に、イベントフライヤーやWebメディア、大会のノベルティTシャツのイラストなど、国内外のオファーを幅広く制作。
Instagram
@hissaxx1006
@hisae_illustration

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長
Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。
HP : Derailleur Brew Works

「イラストレーターです」と言うことで、実力もついたし好きと仕事がリンクした

佐々木さんがイラストレーターとして活躍するようになったのは、どんな流れがあったんでしょうか。

山﨑 子どもの頃から絵がお好きだったんですか?

佐々木 そうですね。それこそ、ずっと絵を描いているような子どもでした。親がとっていた新聞に挟まった広告のなかから裏が白いやつばっかりを抜粋して、それに絵を描いて。

山﨑 地元のスーパーとか、安っぽいチラシの方が鉛筆がのるんですよね。マンションの広告なんかはツルツルして描きにくくて。

佐々木 そうそう(笑)。高校の頃までは自分が着たい服装や好きな漫画やアニメの模写なんかを描いてたんですけど、大人になっていくなかで描かない時期もでてきて。また描きはじめたのは10年前くらいですかね。友達の誕生日にイラストをプレゼントしたんです。その友達をヒロインにした架空の少女漫画の表紙風イラストっていうような。

山﨑 うわー!それ、めっちゃうれしいやつですね。

佐々木 それが喜ばれたのをきっかけにイラストを再開して、友達に勧められてInstagramのアカウントをつくって、描いたイラストを載せはじめたんです。

山﨑 佐々木さんって、基本的にトレランやスポーツ、アウトドアのイラストが多いじゃないですか。イラストを再開した当時から、「トレラン等に強いイラストレーター」って立ち位置は決めてたんですか?

佐々木 いえ、イラストを描いていた歴は長いけど、イラストレーターって自信を持って言えるようになったのはここ2年くらいなんですよね。それでいうと、トレランのほうが先ですね。イラストを職業にしようって思った時にはトレランはもうやっていたので。

山﨑 トレランに関するイラストを描きたいって気持ちはあったんですか?

佐々木 トレランにはハマってしまっていたので、その世界を描きたいっていうのは方向性としてあったんです。ありがたいことに、おのずとトレラン界隈からのオファーが来ることもあって。でも、プロとしての自信も技術もまだまだ当時はなかったんです。

山﨑 そうなんですか。

佐々木 今の時代、SNSがあるので誰でも「イラストレーターです」って自称できるんですよ。正直、イラストのクオリティが伴っていなくても、見せ方によっていいねがたくさんもらえるし、仕事に繋がることもある。でも、中途半端だと、わかる人には実力が伴ってないって見破られてしまう。それは怖いなと思って。

山﨑 ありますよね。「この人、なんでこんなに評価が高いんだ」って思われたりね。

佐々木 Instagramをきっかけに仕事のオファーが来るようになったものの、 まだ自信がなくて、「私はイラストレーターです」って言えなかったり、どれくらいの金額で仕事を受けたらいいのかわからなかったりした。でもある時、友達から「堂々とイラストレーターです、って言った方がいいよ」って言われたんです。

山﨑 ほうほう。

佐々木 「『私なんてそんな』って言いながらやってると、仕事をくれてる人に失礼だし、仕事の幅も広がらないよ。イラストレーターに資格なんかいらないんだから、ちゃんと自称して大丈夫だよ」って。

山﨑 いいアドバイスですね〜!確かに「この人にお金を払って損した」って気分にさせない振る舞いって、社会人としてめっちゃ大事なことですもんね。

佐々木 ただ堂々と自称するにはクオリティがまだまだ足りてないと思ったので、実力をつけるために、いろんなトレイルランナーを観察して、それをイラストにするっていうのを毎日の日課としてやりはじめたんです。

山﨑 基礎体力をつけるために毎日10km走るみたいなもんですか。

佐々木 そんな感じですね。毎日書き溜めた経験は、画力向上にもなったし、イラストレーターとして自信がつくようになりました。

山﨑 毎日やるって、なかなかできるものじゃないですからね。すごいなあ。ランナーそれぞれ、イラストのテイストは微妙に違うのに佐々木さんらしさはちゃんとある。努力されたんだなっていうのがわかるから、カッコいいなって思います。

佐々木 ありがとうございます。そのおかげでトレランだったり、いろんなアウトドアに関わるイラスト……わたしがリンクさせたいと思っていた領域が繋がる仕事が増えていきましたね。

創作欲を刺激する、突飛でユニークなDBWでのクリエイティブ

アクティブなスポーツシーンを描くことが得意な佐々木さんですが、Derailleur Brew Worksのイラストは、普段描かれるテイストとはまた違いますよね。

山﨑 「この銘柄のイラストは絶対に佐々木さんにお願いしたい!」ってお願いしてるものばっかりなんですけど、だいたい無茶な要求っていうか、無茶振りをしてる気がしていて。毎回すみません(笑)。

佐々木 いえいえ、毎回トリッキーなお題が来るので私は楽しんでます。

山﨑 前回お願いした、椎茸や昆布を加えてつくったIPA「泡般°若ZEN(あわぱんにゃぜん)」なんかもかなりトリッキーなお願いをしたなあと。虚無僧みたいな深編笠を被ってて、全身タトゥーで、ビキニの女の子っていう。

佐々木 あはは!すごいオーダーだなあと思いました。

山﨑 いやでも、なかなかパンクな要素だからこそ、かわいらしいポップさがあって、シンプルな線の佐々木トーンで描いてほしかったんですよ。「絶対にすてきなイラストに仕上げてくれる」っていう確信もあったんで。

佐々木 商品紹介のテキストとか世界観、こういう絵を描いて欲しいっていうイメージは、毎回山﨑さんが考えてるんですか?けっこう、世界観のディテールがしっかりしてますよね。

山﨑 そうですね。僕はイラストが描けないけど、世界観をつくるのは好きなので「中心にこういう顔の人物があって、色合いはこんな感じで……」って、最初から決め打ちの設定を送ってお願いすることが多くて。細かいオーダーなんですけど、イラストレーターさんの創作の領域に侵食してる気もしているんですよね。

佐々木 ああいう細かい設定を送ってくれると、「こういうのがいいんだろうな」っていうかイメージは湧きやすいですよ。でも、オーダーそのままだと、満足してもらえないだろうなっていう点を妥協するのはわたしは嫌なので、自分のなかで咀嚼して「こういうのはどうですか」っていう提案も出したうえでつくってますから大丈夫ですよ。

山﨑 そうかあ〜。自分の思いとか考えてるものを出し惜しまないようにしようって思ってるので、毎回こんな注文どう思うんかなっていう不安もあったんです。

佐々木 自分で自発的に描くことは絶対ないテイストなので、新しい自分を引き出してもらってるなあって思います。わたし以外のイラストレーターさんのイラストを見ていても、皆さんきっと自分にないものを引き出されてる気がしますよ。

山﨑 ほんまですか、そう言ってもらえてありがたいです。

佐々木 トレランに関わる内容のように、もちろん得意とするイラストはあるんですが、イラストのテイストはけっこうバリエーションが持てていると思うんです。自分で言うのもなんですけど。

山﨑 そうですよね。Instagram見てたら、少女マンガっぽい絵柄もあるし、太い線とパキッとした色で構成された、なんていうかストリート系の絵柄もありますよね。

佐々木 イラストレーターというと、作風が固定されてることも大事ですが、わたしはいろんな作風で描けるっていうのが武器なので。Derailleur Brew Worksのイラストも、糧になってるなあって思います。

いろんな生き方のパターンを、アーカイブとして残しておきたい

「はじめまして」で山を走るところからはじまった対談でしたが、いかがでしたか。

山﨑 僕、なんでいろんな人と対談するのか今一度考えてみたんですけど。自分のためでもあり、もし自分の子どもが産まれたら、あとは僕たちよりも下の世代の人たちに「こういう生き方があって、こういうやり方があるんやで」っていう記録をとっていきたいんかもなあって思ったんですよ。

佐々木 というと?

山﨑 たとえば「絵で食っていきたいなあ」って思っても、生き方のサンプルがないと、どうやってそこに向かっていったらいいかわからへんじゃないですか。

佐々木 ああそうですよね。わたしも子どもの時、イラストレーターっていう職種もわかんないままに、「絵を描く仕事に就きたい」って言ってたんですけど、親からは「そんなのお金稼げないからダメだよ」って頭ごなしに言われてたのを思い出しました。その時は諦めましたけど、結局は絵を描く仕事をしてますしね(笑)。

山﨑 僕だけだとサンプルがひとつしかないけど、自分の周りのクリエイターの方々が食えるようになるにはどういう葛藤や努力をしてきたのかとかね。運やったのか、実力やったのかとか、そういう話も含めて。

佐々木 うんうん。

山﨑 毎回思いますけど、この対談シリーズってむっちゃ意味のあることやなって思って。今日改めて感じましたね。

佐々木 絵描きになることには反対してましたけど、親は絵の教室に通わせてくれたりもしてたんです。生き方のサンプルを教えることもそうですし、思うところはあれども小さな手を差し伸べ続けるっていうことって必要ですよね。

山﨑 そうですね。もちろん佐々木さんが努力してきた結果だと思うんですけど、好きなトレランもやって、その好きなものをイラストの仕事にもつなげて……っていう、すごくすてきな「こういう生き方があるんやで」を教えてもらいました。

佐々木 よかったです〜。山﨑さんとは同世代なので、話しやすさもあって。

山﨑 最後に、DBWのイラストで、完全に自由になんでも描けるってなったら、どういう絵を描いてみたいですか。

佐々木 えー、なんだろう、なんだろうな、でも、ホラー系とかやってみたいですね。

山﨑 いいっすね!ハロウィンの時期とかにね、血っぽい真っ赤なビールとかいいですよね。イラストありきでビールをつくってみるっていうのも、やってみたいなあ。

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Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
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