もうすこしだけ、STAY TUNE。

好きなものや自分が刺さっている現在進行系のものを紹介しろという。
はて。最近買ったものか。紹介できないものしかない気がする。考えろ、考えろ。
もうすこしだけ、STAY TUNE。

これを書いているのは4月の中旬に差し掛かる頃で、鴨川の桜はもう葉桜になってしまいまった。
京都に住むことになって2年が経って。桜が吹雪いて散っていくのが、美しい街だなあと思う。吹雪く桜の背景に、似合う街並みなのだ。個人的には西本願寺の桜が散るのをみながらチルするのが至高と言い切る。そんなに韻ふみたがるおじさん要る？という疑問を抱き、川沿いを歩く。そうしてこの文を練る。

京都は人口の1割が学生だそうで、当然のことながら大学を含めた学校がすごく多い。入学式だったのだろうか。おめかしと高揚感を纏った新入生であろう男女が、鴨川の縁で腰掛けて、ビールを呑んでいたりする。

あまねく新入生がすなる大学デビューといふものを、僕もしてみむとて、するなり。

もう25年は前の話だ。かつて僕は大学に入学したばかりの新入生であり、大学デビューというものをやってみようと思ったのだ。要はモテたかったのだ。今ほどモテなかったので。実は今もモテない。

そのよし、いささかにものに書きつく。

ギターを弾いてみたかったのだ。勉強はそこそこだが突き抜ける才は無く、体育運動はからっきし駄目な身長１７０ｃｍ体重１２０Kgの、優良肥満体の１９歳が一発逆転でモテる手段は、ギターしか浮かばなかったのだ。バンド活動でフロントマンとしてファンを喰うのだ。そのファンにイベントの受付とか、チケットノルマとか一杯買ってもらって、なんだったらそのファンのワンルームに転がり込んで、ヒモになりたい。
そのためにまずはギターを弾いてみたかったのだ。

弾いたことはなかった。当時僕が通っていた大学は、いわゆるロックやポップス、流行の曲などをバンドで練習したりするサークルは、フォークソング部という名前だった。
フォークソング部が大教室を借り切って、ある日、部員を募集するライブをするという。
ああ、そのライブを見に行って、そのままギターがやりたいですと入部希望を出そう。
教室に着くと、ライブはすでに終わっていて、でも３０人ほどは熱気を帯びたまま残っていて。
後片付けをしている長身のおそらく先輩であろう男性が声をかけてくれた。
なに、入部希望なの？うちはメンバー足りないから入ってくれるとうれしいな。
僕は舞い上がって、はい、がんばるのでぜひ入れてくださいと大きな声で返事をした。ボーカルは声量がものをいう、ということは尾崎紀世彦と布施明からすでに教わっていたのだ。
経験者でしょ？先輩がそう聞くので、見栄を張って、はいと言ってしまった。ああ、ギターより先にボーカルへの道を進むのか。まあギターボーカルでいいか。
ドラムやってたよね？
え？声を失った僕に、先輩は続ける。
ああ、いいね君。ドラム体型だしね。うちドラム足りないんだ。

それから、僕はフォークソング部に行ってないし、君はロックなんか聴かないって言われながらでもロックばっかり聴いてたけど、この日の出来事を乗り越えるこんな歌やあんな歌に出会うことはなかった。
25年。

箕面に今年、タップルームを作った。山ノ麓という名前の、居心地のいいタップルームだ。そこのお客さんと、スタッフで、ビッグ・バンドを結成しようということになった。山ノ麓オーケストラというバンド名だ。どうだい、イカシてるだろう。
初心者か、触ったことのない楽器なら参加OKという縛りで、一年かけて一曲やれるようになろうというプロジェクトで、誰も選ばないので、オーナーはしかたなくドラムをやることにしたのだ。オーナーが客より出しゃばるわけにはいかないのだ。
ああ、そうして、結果。
25年目の大学デビューが、ここに結実する。
そう考えながら、鴨川沿いで桜をみてると、ちょっとわくわくしてきて、来年の今頃には自分を鼓舞するビートを刻めるといいなあって、思った春だったのであった。
携帯を取り出し、ドラムセットと検索し、ネットでポチると、すでに脳内には僕だけのマーチングバンドがリズムを刻んでいた。

今週は、そんなことがあった。ネクストはコーン茶、カフェインレスのいい飲み物です。