Windham Hill の10曲

今はもう、ウィンダム・ヒル・レコードを知っている人は少ないだろう。
1976年、ギタリストのウィル・アッカーマンが、自身の作品を発売するために創設したレコード・レーベルである。

Windham Hill という名前は、かつて彼が滞在したことのある、若い芸術家たちのたまり場「Windham Hill Inn」から付けた名前である。そこに、ピアノ、ギターなどのアコースティック楽器奏者が集まってきて、レーベルはソロ集団となった。

自然な音が織りなす、心安らぐ作風が時代に受け入れられ、“New Age Music” と呼ばれた。
1980年代、ジョージ・ウィンストンのピアノ作品のヒットとともに、何人ものミュージシャンの作品が注目された。

1980年代初頭、コンピュータ・ソフト業界に就職したての20代だった私は、職場で気の合う仲間とロック・バンドを組んで、演奏を楽しんでいた。

今、三十数年前当時を振り返ると、ゆとりのある時代だったなと感じる。

大音響の音楽にもちょっと食傷気味だったある日、TSUTAYA で、George Winston のアルバム「Autumn」を手に取った。当時、既にＣＤが販売されていたが、レンタル・レコード店に並ぶ音楽コンテンツはまだ、ＬＰレコードだった。30センチ四方のジャケットには、ただ濃い青空と、ほんの少し、緑の草原が映っているだけの写真で、それがピアノ・ソロ作品だとさえ気付かずに、しばらくジャケットを眺めていた。

George Winston の「Autumn」から Windham Hill Records の存在を知り、創設者でもあるギタリスト、ウィル・アッカーマンの作品も聴いてみた。透明感のある、不思議な響きが支配する、実に平和で、シンプルな曲が並ぶ。

ギター弾きなら誰でも、自分で弾いてみようと思うものだ。
自分のギターで、音を拾いながら弾き進めてみる。思い当たるコードは的中しない。
長たらしい説明は端折るが、つまりは、弾けないのだ。

数年後に判明するのだが、ウィル・アッカーマンは、ノーマル・チューニングでは弾いていない。
作曲作業はまず、出鱈目にオリジナルの変則チューニングを創り、そのギターから、偶発的に生まれたメロディーやコード進行で、曲を創っている。その変則チューニングは何種類もあり、曲毎に〝その曲でしか使われない〟変則チューニングが存在する。

何という自由な発想だろう。既成概念に囚われない考え方を信条にしてきた私でさえ、思いも付かなかった発想である。

Windham Hill Records の幾多の秀作の中から、ギタリスト、ウィル・アッカーマンと、ピアニスト、ジョージ・ウィンストンの作品を、10曲紹介する。

曲解説というものが嫌いなので、予備知識無しでお聴きください。

1. Processional

2. The Impending Death of Virgin Spirit

3. Hawk Circle

4. Visiting

5. Rain to River

6. The Opening Of Doors

7. Colors / Dance

8. Longing / Love

9. Moon

10. Thanksgiving

自然回帰だの、懐古趣味だの、保守的な見方をされがちな Windham Hill Records の黎明期だったが、当時、デジタル録音を最も早く導入した制作現場であった。

■Windham Hill という名前
ニューヨーク州の東側に隣接するバーモント州は、州域の約80％が、草原、高原、湖と、緑と自然が豊かな地域である。南バーモントの山間部に「 Windham Hill Inn 」という宿泊施設があり、そこは、若き芸術家が集う場所でもあった。
西海岸、カリフォルニア州に住むウィル・アッカーマンは、かつてこの地に滞在し、この施設の名前に因んで、「 Windham Hill 」と名付けた。

最後に、写真は関西各所で妻が撮影したものの中から、Windham Hill の精神性に通ずる、静寂、清涼感、透明感を感じるものを選んだ。

Illustration by hina
Photography by SunBird（阪野正子）