したりしなかったりラジバンダリ
2022.08.25
へん‐あい【偏愛】
ある物や人だけをかたよって愛すること。また、その愛情。
今回の偏愛者は、総務経理 管理者 井上 政貴。
自転車好きが高じて、西成を舞台にトレーニングライドをするそうだが…果たして。
PROFILE
総務経理 管理者 井上 政貴
以前はもっぱらロードレースとシクロクロス(オフロードでのレース)と、ひたすらレースしかしてませんでしたが、自転車で飛んだりにも手を出したり、 元々レースで使ってた自転車を街乗り用にレストアしたりしてなかったりしてます。
趣味というか、趣味と呼ぶには度を越したお金を費やしたものがある。
「自転車」
3歳の時に買ってもらった自転車。
今思えば、春夏秋冬、幼稚園が休みの日は朝から夕方までご飯の時間以外は、自転車で坂の多い神戸の町中を走り回っていた。
その時の将来の夢は、確か競輪選手かタクシードライバーだったと思う。
小学生になると、自転車が好きということに人とちょっと違うことをしたがる天邪鬼なところが出て、ジャイアント(自転車メーカー)の明らかにサイズのデカいマウンテンバイクを買ってもらい、乗り回していた。
その後、高校でようやくママチャリを購入した時に、カゴがついているということに感動する。
この間、小学校、中学校は野球。
高校、大学は陸上競技に打ち込む青春を過ごす。
大学でようやく、部活の先輩との何気ない会話で「サイクルロードレースとツールドフランス」というものを知る。
23日間で21ステージ。
毎日200キロ近い距離を走る?
アホかな?
とは思ったが、たまたま自宅ではケーブルテレビで見ることができたため、視聴することにした。
100km近い速度でダウンヒルをし、ド平坦では人力のみで70キロを超す速度でゴール勝負を繰り広げる。
かと思ったら、連日富士山もしくはそれ以上の峠を登ることがある。
あとは、無限に時間のある学生だったということもあっただろうが、
1ステージ数時間、それがワンデーから、最長21日間見ることができるということもあって、
サイクルロードレース観戦にドはまりした。
大学4年生で部活も引退し、バイトをする時間が確保できるようになり、卒業間近の2月にようやくロードバイクを手にすることができた。
どうやったら一番安上がりでロードバイクが買えるのか、ググりまくった挙句、自分でばら売りで部品を買い集め組んだ一台。
多分完成車で買えばもっと安かったと思う。
それから就職で滋賀へ。
そこでようやく、ちゃんとしたスポーツバイクのお店と出会う。
大学まで続けた陸上競技で一切結果を残せず、競技スポーツに未練のあった自分が、初めての練習会で自分よりも年齢が倍のおじさんにボロカスにちぎられ、競技者として自転車に取り組むこととなったのは、
運命だったのだと思う。
初めの数年はとんとん拍子でいき、念願叶い国内のトップのカテゴリーで走ることができた。
だが、そこからはほぼほぼ苦しい時間だった。日本選手権(実質モブ)や国際レース(チームがいいチームだったので出られただけ)を走る機会もあったが、ただただ自分の弱さを突き付けられる日々で、充実はしていたが、満足のいく競技生活とは言えなかった。
ただ、自転車があったおかげで社長との出会いがあり、今があるという意味では無駄では無かったと思う。
さて、前振りが長くなりすぎた。
少々ブランクはあるが、まだ競技者としても終わったわけではない。
今度こそは日本選手権で戦える選手になることを目指し、トレーニングに出ることにした。
その前にまずは、軽くローラーでアップだ。
今日のコースは一筋縄ではいかない。
アップして、最初から全力で戦うための準備が必要だ。
時間は夕方の16時。
涼しい時間にトレーニングすることも大事だが、夏の暑さになれることも同じぐらい大事だから今日はこの時間にした。
今日選んだ場所は、ひとけのない山などではなく、西成。
レースで勝利をつかむのために必要な要素がここにはすべて詰まっていると思ったからだ。
この狭く入りくねったコンクリートジャングル?西成を意のままに走り抜けることができれば、
レースの集団内で、自由に動きまわれることは約束されたようなもの。
ネオン街や花街にも、一切心揺らがない精神力がレース中の冷静さに直結する。
そもそもこの時間帯の西成の商店街を、この格好で走るという羞恥行為が何よりもメンタルトレーニングだ。
逃げ(※1)や、スプリント(※2)で勝負を決められるようになるためにも、
いかなる状況からでもアタック!アタック!
※1 レースのメイン集団(主要な選手の多くを含む大きな集団)から飛び出して、先行すること。
※2 レース中に全速力で加速すること。主にゴール前で行われるスプリント勝負はロードレースの醍醐味。
トレーニングも終盤。
ここから一層、集中していきたい。
まずは、この玉出のコーナリングで差をつけろ。
トレーニングの最後には、やはり勝利をつかんだ瞬間のためのポージング。
常日頃、最低2パターンはポーズを用意しておきたいものだ。
そして、家路につくときだって
もちろん全開だ。
自転車に乗るときは、いついかなる時もトレーニングなのである。
「なぜベストを尽くさないのか」
常に追いかけてくる悪魔のような問い。
この西成の街で争い続け、牙を研ぎ続ける。
それが、サイクリストとして生きる自分の在り方なのだ。
※歩行者の通行の妨げにならないよう、交通ルールを守りゆっくり走行で撮影しています。
Photography by コイケ マオ