#02 「なんでみんなやらんの?」京都のクラフトビール文化を牽引する株式会社カケザン代表の実体験主義な生き様

2025.10.20

白石 拓海 氏

株式会社カケザン代表取締役

京都府京都市出身。ビアパブ「BEER PUB TAKUMIYA」を2015年にスタート。現在は市内で飲食店4店舗を運営するほか、山の恵みゆたかな京北の地でつくるクラフトビール「NUDE BEER」を立ち上げる。高校卒業後から国内外を放浪し、人と出会ってきた経験を糧に「人と人が繋がるコミュニティー」「自然と街を渡す橋になる」をテーマに、場所づくりやブランドづくりをおこなっている。

Instagram:KAKEZAN

山﨑 昌宣

株式会社シクロ代表取締役 / シクロホールディングス株式会社会長

Derailleur Brew Works代表

大阪府大阪市出身2008年大阪市内で介護医療サービスの会社「株式会社シクロ」を発足。2018年からは趣味が高じてクラフトビール「Derailleur Brew Works」の醸造を開始する。自転車競技の実業団にも所属するロードバイク好き。異業種の出会いこそが自らが強く&面白くなれる道と信じていて、人との繋がりを大事にしている。口癖はネクストとステイチューン。

HP : Derailleur Brew Works

醸造家は「まだ見ぬ味をつくり出したい!」ってタイプばかりではない

お店を増やしたり、新事業をするなかで大切にされていることはありますか。

山﨑 株式会社カケザンのすごいところって、1本筋感があるんですよね。飲食店の「BEER PUB TAKUMIYA」「高野麦酒店TAKANOYA」「Crafthouse Kyoto」、角打ちの「TRAM」。で、いまは京北で「NUDE BEER(※1)」も醸造してるじゃないですか。

白石 そうですね。

山﨑 それぞれお店のコンセプトも雰囲気も違うけど、拓海さんのやりたいことや、積み重ねてきたものが1本の道の上に続いてるというか。拓海さんのこと見てると、うちの「Derailleur Brew Works」はどうも計画的にまっすぐ進めてないダメさがあるなあって思います。

白石 けっこういろんなことやってますもんね。

山﨑 そう、良くも悪くもフィールドを広げすぎちゃってる感じで。

白石 う〜ん、でも多分、そっちの方が会社としては絶対楽ですよね(笑)。

山﨑 あはは!拓海さんもそんなふうに思ったりするんですか。

※1 NUDE BEER 
京都府内でも自然が残る京北町で醸造を始めたブルワリー。京都府内で飲食店を展開する株式会社カケザンの新事業として、2023年にスタート。

白石 思いますよ。世の中にコンセプトを打ち出して、ブランディングどおりのものを目指すと、美しさはあるけどそこに束縛されるじゃないですか。自由な発想も、ちょっと抑えないとあかんこともある。経営してる人って自由人な人が多くて、いろいろやりたい人ってめっちゃ多い。多分、山﨑さんも自由なタイプだと思うんですよ。ただ、働く人はそうでもないんですよね。

山﨑 ああ……はい、そうですよねえ。

白石 働く人のこととか全体を見て、そこに合わせていかんと結局成り立たへんのですよね。山﨑さんの言う「1本筋感」っていうのはそういう理由もあるのかも。自分は120%楽しみたいけど、独りよがりになってしまうくらいなら70〜80%くらいに抑えて、堅実なところに落ち着くってことが多いですね。

山﨑 なるほど。

白石 仮に同世代の仲間が集まってつくってる会社やったら、テンションも合わせて120%目指すと思うんですけど。うちはもういろんな世代が働いてますし、時代ごとに価値観も変わっていきますしね。

山﨑 今度、うちの若手ブリュワーが神戸で独立するんですけど、彼とは経営論とか、ブリュワリーはどうあるべきかとかいろんな話をしてきたんですよ。で、僕って、ブリュワーっていままでにない味にチャレンジできるとか、自分がつくりたいものを自由につくれる環境に憧れがあるもんやろって先入観がずっとあったんです。

白石 はいはい。

山﨑 けど、実際そういうタイプはそこまで多くないんですよね。ユニークな味を求めてない人も多いし、既存のもののクオリティを守ってつくり続けることに喜びを感じるって話を聞いて、自分の思ってたこととのギャップにむっちゃびっくりしたんですよ。「NUDE BEER」も、どちらかというと安定感があるビールなように思います。京北の土地でつくってるところや、ヌード……つまり「ありのままになる」っていうコンセプトは新しいんですけど。ただその新しさは奇抜さとは違うなって。

白石 そうですね。「NUDE BEER」も、今までに飲んだことのない新しい味っていうよりは、安定してこう、毎日1杯目に飲めるビールをつくって、クラフトビールやけど日常的に飲めるっていうくらいの低価格で出していきたいっていうのが大きいです。

直接電話するのを敬遠する昨今だから、あえて電話予約のみの店もアリかも

今後、新しいことを始めるならどんなことをしてみたいですか

山﨑 1号店からいままで、いろんな形態のお店や事業をされてきてますけど、ビールに対する比重とか、こういう店にしていきたい願望とか、変わってきたものってありますか?

白石 ベースは一貫してますね。やっぱりコミュニティをつくりたい。「BEER PUB TAKUMIYA」はカウンターの内側の人が船頭さんの役割をするためにつくったんですよ。昔の日本、特に京都は川に小舟を浮かべて、人や物を運んでたわけじゃないですか。船頭さんが人の動きや物の流れをコントロールしてた。

山﨑 うんうん。

白石 カウンターの中の人は場の空気をつくる人であり、人の繋ぎ役であり、物流の受け渡し係でもある。店主やスタッフがお店を引っ張る船頭さんとして立つっていうコンセプトでしたね。

山﨑 「BEER PUB TAKUMIYA」はそれが明確じゃないですか。それでいうと、「TRAM」はどうなんですか?あそこには船頭役のためのカウンターがないじゃないですか。

白石 これからの若い子たちに対して、船頭役はいらないと思ったんですよね。世代間ギャップですけど、いまの若年層は「この人についていく!」っていう共通のリスペクト対象もないし。同世代がひとつの空間に集まっていて、そこに違う世代が交わった時に、お客さん同士でコミュニケーションを取ってそれぞれの世代の話ができるような形を取りたいと「TRAM」に関しては考えてます。

山﨑 主役のスタッフはもう不要だと。

白石 不要というよりは、完全に脇役でいいとは思ってますね。

山﨑 まあ、全ての店舗に白石拓海のような人をつけるっていうのは無理な話ですもんね。飲食店も求められる役割がどんどん変わってきてるんやろうなあ。じゃあ、仮に5店舗目・6店舗目がこれからできるとして、方向性は「TRAM」の延長線上になってくるような感じですか。

白石 そうですね。それは東京なのか、京都も含めた地方都市でやるのかで変わってきますけど。地方はどうしても、トレンドのスピードが数歩遅れてやってくるんで。

山﨑 東京やったら、京都でも試せないようなことします?

白石 そうですね。もっとオートメーション化して……。あ、でも機械でビール入れるようなことはしないですけどね。

山﨑 ほうほう。

白石 僕、機械が一番信用できないんですよ。経験して考えてきたことの積み重ねや価値観が機械にはないっていうのが。だから、予約サイトなんかも、有料化されてるようなサービスは使わないです。なんでこんなん使うんやろ、とも思ってしまいますね。

山﨑 予約サイトとかは使わないんですか。

白石 一部使ってますよ。でもできたら電話してよって思っちゃいますね。

山﨑 しっかりおじさんの年齢ですけど、僕も最近は電話しないですねえ〜。めっちゃハードル高いじゃないですか、お店に直接電話するのって。

白石 僕からするとこれがハードル高いんやって思うんで、逆にあえてそうじゃないと予約取れないとするとおもしろいですよね。どうしても、やっぱり直接の会話を避ける時代なんやなっていうのはだんだん感じてるんですけど。そういう時代やからこそね。

山﨑 海外の人はどうですか?

白石 海外の人もそうですよ。やっぱり、直接連絡をハードルに思う人が増えてきてます。こういうご時世になってくると、自分が目指すコミュニティのあり方みたいなものは、つくりあげるのにめっちゃ時間かかるんかもなあって気もしています。

山﨑 なるほど。

白石 もう無駄に年は取っていくし、最終的には地方都市でカウンターだけのお店をつくるとかっていうのも全然ありかなと思って。googleなんかで行かなくてもお店のことを簡単に知った気になるようになったんで、「ここで飲むことを目的に訪れるお店」っていうのもあっていいと思ってますね。

山﨑 初心に戻って、船頭のお店ですね。

白石 うん……。どこでお店を出すとしても、わざわざ目指すべき店をつくるっていうところをやった方が自分にとってはおもしろいし、合うのかなあ。

昆布が獲れる現場を知らないのに、出汁を語る人が多い

「自然の中で作られるクラフトビール」と言うだけあり「NUDE BEER」は右京区のかなり山中にありますよね。

山﨑 そうそう、「NUDE BEER」の醸造所は京北(※2)にあるわけですが、やっぱりあの立地でやるっていうのが大きかったんですかね。めっちゃいい環境だなあとも思うし、わざわざ目指すべき店をつくるっていうさっきの話の延長線で言ったら、醸造所を目指していきたい気持ちもあるけど、行くにはちょっとハードル高いんかなって気もしていて。

白石 確かにちょっと遠いですけど、あそこまでいける人にしかできない体験っていうのはあると思ってます。市街地から1時間くらいかかりますけど、でもたった1時間ですよ。

山﨑 小旅行としてはそんなに難易度は高くないか……。

白石 街なかではコミュニティをつくりたいんですけど、別軸で、郊外や田舎と街なかの架け橋にもなれるようにしたいんですよね。「NUDE BEER」があそこにあるのも、実際に出向くことで人生に体験を増やして欲しいんです。

山﨑 国内外いろんなところに行って、実体験ばっかりしてきた拓海さんが言うからこその重みやなあ。

白石 日本人ってよく「顆粒出汁はアカン」みたいに、出汁に対してうんぬんかんぬん言ってるのに、誰も昆布漁をしたことがないんですよね。漁まで行かなくても、昆布が獲れる現場を見てない。なんかそういうのがなぜ「出汁が、和食が〜」って語れるんやろって。

※2 京北地域
京都市中心部から車で約1時間半、山々に囲まれた自然豊かなエリア。

山﨑 ああ……なるほど。

白石 そういう人、めっちゃ多いじゃないですか。それって、けっこうさみしいことじゃないですか。

山﨑 まあでもそれは、政治に文句つけたかったら政治家になれって言ってるようなもんじゃないんですかねえ。気持ちはめっちゃわかりますけどね。1度でいいからつくってみる側にまわったり、現場に行ったりするだけで視座が一気に高くなりますよね。僕もビールつくりはじめて変わったことたくさんあるんで。

白石 たとえば「地方創生」って、めっちゃ流行ってるじゃないですか。とはいえ、大都会のビルの中でパソコンしか触ってない人が田んぼ復興させようとして実際なにができるんやろって疑問はあるんですよね。もちろん、全ての人には得手不得手があるのは理解してますけども。

山﨑 説得力がないっていうのはわかります。

白石 さすがにいきなりつくれっていうのは難しい人も多いので、とりあえず京北来たらええのになって。わかることがいっぱいあると思います。

山﨑 そういう拓海さんの考えが「NUDE BEER」には乗ってると思うんですけど、田舎と街なかの架け橋にっていうのであれば、今後醸造所を拡大していくってことも考えてるんですか。

白石 やりたいことは増えていくんですけど、「NUDE BEER」としてというよりは、株式会社カケザンとしてやりたいことだから、ブリュワリーを拡大する願望は持ってないんですよ。広げるっていうよりは、より掘り下げたいかな。

山﨑 たとえばどんなんですか。

白石 世界のいろんなとこ、日本の島々で遊んで知ったのは、食べれるものや身にまとえるものがじつは目の前にめっちゃ広がってるんです。みんなが知らないことを掘り下げて、そのビールなのか他のドリンクになるのか、それに乗せて表現したいなっていうのがあるってところですかね。

山﨑 ビールやったら副原料として使えるとか、そういう。

白石 そうですね。たとえばドクダミとか、ごくごく当たり前にあるけどみんなに迷惑がられるものだとか、草木だったり花だったり、自然物から抽出して使いたいなっていうのがあって。さらに言えばもともと日本にあるものを使いたいんですよね。あ、「NUDE BEER」はあくまで低アルコールの日常的に飲めるビールなので、もし自然物からなにかをつくるとなると、また別のブランドを立ち上げるのかもしれないです。

山﨑 そうなると、別にビールじゃなくてもいいのか……。「京都でクラフトビールを飲むなら」といえばなお店をもってて、ビールもつくってるのに、ビールとの距離感がいい意味であるのが拓海さんのおもしろいところですよね。ビール好きのなかには、いわゆるギーク的な人たちもいるわけじゃないですか。

白石 そういうのは全く興味がわかずに来たんですよね。コミュニティのための飲み物としての現状における最適解がビールってだけなんで、議論のテーマになるかどうかは僕にとって重要じゃない。まあそもそも、おいしいものを出すのは当たり前なわけですし、食べ物に関しても。

恐怖心を捨てた人だけが新しい大陸にたどりつくのかもしれない

白石さんの強烈な個性が見える対談でした。

山﨑 拓海さんは研究者気質ですよね。気になったからって国道1号端まで行ったり、日本の端で過ごしたり。人間のこともよく見てるんやろうなって思います。

白石 あー、なんか好きなんですよね。その人の心理がどう動いてるのか気になりますね。ただ人は好きなんすけど、人に疲れることもある。

山﨑 だから1人になれる自然、それこそ山とか海に行きたくなる気持ち、わかります。めっちゃ人好きですけど、集まり好きのパリピって感じでもないんですよね。

白石 そうですね。騒いで楽しんでって瞬間だけが楽しいやつ、未来がないじゃないですか。

山﨑 (笑)。

白石 だから遊ぶってなっても……最近はそうですね。森林の研究者なんかと森の中に入って、「NUDE BEER」の醸造所がある森に何をつくったらおもしろいかって話をしたり。このアリが食べれるとか、このキノコ食べれるとか、この水が飲めるとか、そういう遊びには知的好奇心が湧きますよね。

山﨑 へええ〜。食べられるって言われても、キノコなんかは怖くないですか?

白石 え、そうですか?

山﨑 中毒になったらどうしようかとか。まあ、そもそも拓海さんはそもそも恐怖心とかあんまりないタイプなんですけど。キノコは置いといて、海外放浪したり、海底に潜ったり、死ぬのが怖くないんですか?

白石 こう、別に……う〜ん、死んだら悪いんかな?って。死んだら何があかんのかなって思うんですよね。

山﨑 人生観!

白石 「これは危ないからやったらあかん」とか「死ぬわけにはいかないから行かない」とか。やりたいならやったらいいじゃないですか。なんでみんな、世の中の多くの人は、死ぬのが悪いことだからって、気になることから離れるんやろうかって。

山﨑 多分それは……。僕は死にたくない側の人間ですけど、きっと拓海さんみたいな人ばっかりやったら、みんな謎のキノコ食べて、海潜って、人類が滅んでまうからじゃないですか。

白石 お、おお〜〜!(笑)。

山﨑 拓海さんみたいなタイプの人は人生の挑戦のなかで怪我したり食中毒したりで減ってしまって、安全策を取り続けたタイプがいっぱい生き残った的な。でも、拓海さんタイプの人たちがごくたまにいるからこそ、僕らは新しい食べ物や土地を見つけてこれたんちゃうかな。

白石 なるほどなあ。

山﨑 コンパスも地図もない時代に、丸太とかで船つくって海に漕ぎ出した人がいるからこそ、絶海の孤島にも人が住んでいるわけで……。拓海さんは研究者気質でもあり、先駆者気質でもあるんやろうなあ。なるべく死なないでください(笑)。

CRAFT HOUSE KYOTO

〒600-8138 京都市下京区大宮町211

平日:  16:00 – 23:00
土日祝: 12:00-23:00

【Instagram】
https://www.instagram.com/crafthouse_kyoto/

Interview & Text by ヒラヤマヤスコ
Photography by 福家信哉

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